僕が大学生の頃、とあるリサイクルショップでバイトをしている時。
同じ時期に入った若い女の子がいました。
お互いに自己紹介をして、「前職は?」と聞きました。
僕はスーパー。
彼女はコンビニ。
僕はコンビニで働いたことがないので興味があり、「どんな感じで働くのか?」と尋ねました。
すると彼女は、
「正直気持ち悪い」
と渋い顔をします。
辞めた理由もトラブルだと言う。
彼女曰く。
レジを担当していると、いつも声をかけてくる中年のお客さんがいて。
「おつかれさん。今日もがんばっているねぇ」
と缶コーヒーを二つカウンターに持ってきて、一つは彼女に差し入れとして、毎回もらっていたそうな。
「ありがとうございます~!」
そんなやり取りが毎日、続いて。
なんか、グイグイ前のめりで、カウンター越しに話しかけてくるから、ちょっと居心地が悪くなりだしたそうな。
日に日に、その距離は近づいていき、会話は彼女の容姿に変わっていく。
「ねぇ、君の……長い髪。艶があって本当にキレイだねぇ。僕、スキだよ」
「あ、ありがとうございます」
「はい、今日のコーヒー」
「いつもありがとうございます……」
「いいっていいって」
当時、黒髪の女性は珍しく、金髪や茶髪が流行でした。
僕も確かに染めてない女性を見るのは、久しぶりで、清楚な感じを覚えました。
ある日、彼女は少しだけ長い髪を切ってきたらしく。
気分転換にもなって、鼻歌交じりで本のコーナーで、腰をおろして商品を並べていると……。
すぅーっと、肩に何が触れる感触が。
振り返ってみると、背後にいつものコーヒーおじさんが立っていて、自身の髪を手のひらで確かめていました。
「ダメじゃないかぁ~」
「え……」
少し短くなった髪の毛を指で撫でまわし、怪しく微笑む。
この時、彼女は恐怖から鳥肌が全身に回ったそうで。
「あんなにキレイな黒髪を勝手に切っちゃ……」
言いながらもずっと、毛先を触り続ける。
「あ、あの……」
「今度切るときは、僕の許可をとって切るんだよ。切りすぎだよ」
恐怖からなぜか謝ってしまう。
「す、すみません!」
そして、彼女はその日のうちに、店長にコンビニをやめることを伝えたそうです。