―無口で冷酷な次期大龍神(じきだいりゅうじん)
 そんな評判である次期大龍神の龍康殿聖等(りゅうこうでんせら)は苛立っていた。
 観桜パーティーは言ってしまえば人間とあやかしたちの仲を深めようパーティーだ。
 この場で自分の人間の花嫁を探すあやかしたちもいるようだが、聖等はさほど期待していない。あやかしたちでも花嫁を見つけるのは少ない。人間で妖術を持っているものが少ないからだ。
 あやかしでも難しいことなのに、龍神で花嫁を見つけるのはもっと難しい。
 溺愛したくなるという花嫁という存在に対して興味がないわけではないが、出会える確率は低いし、周りに花嫁のいる龍神を見たことがないので期待していなかった。
 そんなことよりも、この機会を利用して龍康殿と結びついてやろうとする政治家や社会的実力者たちがうっとうしくてたまらない。
 さっきからそういった汚い政治家たちがわんさかやってくる。
「龍康殿さん、今私と手を組むことは悪い話ではないだろう?こんなにも才能ある私が政治家を辞めたら日本はおかしくなってしまう」
 普通ならきっぱり断れば引くのだがこの政治家はしつこく食い下がってくる。
 この政治家は汚職事件をやらかして窮地(きゅうち)に追い込まれているらしい。
 龍康殿は主に聖等が社長をしている金融業が中心の日本屈指(くっし)の大企業龍康殿グループを営んでいる。
 人間界でも大きな力を持つ龍康殿を頼ればなんとかなると思いこんだらしい。
 聖等とて助けてやるつもりはない。
「断る」
 断固として切り捨てても、まだ政治家は引かない。
「お願いだ、頼む。龍康殿さんなら私を支援してくれるだろう?」
「断る」
 政治家はついにキレて何やら(わめ)き始めた。
「何を言っている!この私が下手(したで)に出てやってるんだぞ!!!」
 聖等は眉間にしわを寄せてひとにらみしてやった。
 顔が整いすぎているのでにらむだけで人は震えだす。
「ひっ」
 政治家は小さく悲鳴を上げて震えている。
 にらむだけでは終わらそうな聖等のずっと横にいた聖等の右腕であり龍康殿グループ副社長の龍宮寺天馬が前に出て一言いう。
「黙れ」
 天馬が手をたたいて合図を出すと横から男たちがたくさん出てきて政治家をその場から連れ去った。
 天馬は聖等が家族以外で一番信頼していて心を許せる右腕の存在だ。
 天馬は聖等に比べて温厚な方だ。しかしそれは聖等と比べてなので、世間一般的に冷たい方かもしれない。
 まあ、それは時と場合によって変わるが。
 天馬はまだ聖等がピリピリしてるように感じられたので、和らげようと話しかけた。
「この場所はああいう政治家が多いですからね。中の会場に入りましょう」
「そうするか」
 二人は会場の扉を開けて、中に入った。
 この二人は天龍都の次期トップなので、あやかしたちから恐れられ、(ルビ)われている。
 二人の存在に気づき出した者たちから道を開けていく。
 そのまま歩き出そうとしたとき、胸が高鳴り、高揚した気分になった。
 聖等は自分の気分の変化に困惑した時、一人の少女が目に入った。
 その少女がようやく自分の存在に気づき、確信した時、この少女が自分の花嫁だと確信した。
 早く少女のそばに行きたいという高鳴る気持ちを抑え、ゆっくりと少女のもとへ歩みを進める。
 ようやく少女のもとへ着いた時、なぜか隣に自分と同じような状態になった天馬がいることに気づいた。
 そして、彼らは自分がいま最も見ておきたい相手に目を向け、この言葉を言った。

「「天龍都へようこそ」」
「「俺の花嫁」」

 そう言ってしまってから、聖等は少女から目が離せずにいながらも、心の中で驚いていた。
 この様子からすると、天馬も自分の花嫁であろう少女の隣にいるものが花嫁だとわかったらしい。
 龍神の花嫁は稀でこの世に一人存在するかしないかなのに二人も存在するとは…‥。
 自分の花嫁であろう少女は白髪で碧眼、そして妖術も持っていることが聖等にはわかっていたが、天馬の相手は妖術の発覚が遅く、もうすぐ髪と目が白髪と碧眼に変わることが見て取れる。
 こういう者は(まれ)中の稀で、歴代の花嫁の中で一人や二人しかいない。
 その少女たちは少しの間固まっていたが、我を取り戻したもう一人の少女が自分たちに尋ねてきた。
「どういうことです?私たちがあなたの花嫁ということは本当なのですか?」
 ごもっともだ。とまどうのもこの少女のような者はたいていそのような反応をする。
 その質問に、天馬が答えた。
「冗談でこんなことは言わない」
 そこで聖等はその他もろもろ説明しようと思ったが、あたりは騒がしく、ゆっくり話せそうにもない。
「ここは騒がしいから、一回外に出ないか」
 そう提案し、少女とともに会場に出た。