本当ならまだ寝ているであろう早朝(そうちょう)4時に美桜は麗美にたたき起こされた。
 なぜだか麗美はいらいらしている。
「なんでまだ寝ているの?早く起きて朝ごはん作ってよ」
 朝ご飯を作るのは美桜の仕事だが、こんなにも早く起こされたことはない。
「まだ朝の4時だよ?」
 美桜は不思議(ふしぎ)に思って聞いただけだが、なぜだか麗美の(しゃく)(さわ)ったらしい。
 麗美は舌打ちをしてから(わずら)わしそうに言った。
「今日は文化祭って言ったでしょ!つべこべ言わずに作って!お姉ちゃんができることなんてこれぐらいいしかないんだから」
 そんなこと言われてないと言おうとしたのを寸前(すんぜん)で飲みこみ、美桜はさっさと朝食の支度(したく)を始めた。
 作ってから自分も高校に行く準備をし始めようとすると、麗美に呼ばれた。
「この目玉焼き何なの?焼かなすぎ。こんなの食べて大事な文化祭でおなか痛くなって台無し(だいなし)になったらお姉ちゃんのせいだからね!」
 昨日は半熟(はんじゅく)にしてといわれていたのに。
「ごめんなさい」
「あっ、わかった!お姉ちゃん私がみんなから可愛がられていることに嫉妬(しっと)してるんでしょ。だからわざとおなか痛くなるようにしたんだ。不吉な子は性格もひどいのね。」
「そんなことない!」
 麗美は鼻でバカにしたように笑ってから言った。
「口答えしなくても私はお姉ちゃんが性格悪いことわかってるから安心して。いいからサッサっと髪結んで!今日は玲央と一緒に回るんだからしっかりしてよ」
 美桜も高一なのだから学校は当然あり、準備もしたいのにいつも麗美はこき使ってくる。
 おかげでいつもギリギリだ。
 ようやく麗美の準備が整ったところでチャイムが鳴った。
 玲央が麗美を迎えに来たのだ。
「玲央だ♪」
 嬉しそうに麗美はそう言い、玄関に()けて行った。
 美桜はそこで麗美の忘れ物に気づき―本当なら知らんぷりしておきたいが後でたたかれるので―(あわ)てて追いかけた。
「玲央、この髪どう?私がアレンジしてみたの」
「とても似合っているよ」
 麗美の(となり)にいるのが婚約者の鬼塚玲央。
 美桜が着いた時、二人は仲がよさそうに話していた。
「麗美、これ忘れてたよ」
 麗美は美桜をにらみ、いきなりふんだくるようにとった。
 一方で、玲央は先ほど二人で話していた時の表情と違い、無表情でこちらを見ていた。
 麗美以外に興味はないらしい。
 美桜がこの家でのよくない扱いを一番知っている家族以外の他人ではあるのだが、気にも()めていない。
 二人が出ていくとようやく自分の準備ができ、ギリギリ電車に間に合った。