「ちょっとお姉ちゃん何これ!言ったのと違うじゃない」
 美桜(みお)は妹の麗美(れみ)に買ってきた洋服のことで怒られていた。
 麗美がいつも難癖(なんくせ)をつけるのはいつものことだ。
 今だって美桜が手にしているのは確かに麗美が言いつけた服であるのに。
「ごめんなさい。でも麗美はこの服が欲しいって言って…」
 パァン!
 (ほお)(たた)いた音が(ひび)いた。
 美桜が頬を抑えてうつむいていると、麗美が怒鳴(どな)った。
「私に口答えするの⁉私の方がお姉ちゃんより正しいに決まってるじゃない」
 そこに両親がやってきた。
「何の(さわ)ぎだ」
「まあ、麗美どうしたの?」
 麗美は急に目をウルウルさせて、さも傷ついたように言った。
「お姉ちゃんったらひどいのよ。私が言った服と違うのを買ってきたのに私が(うそ)をついてるって言って怒るの」
「美桜!!!」
「美桜、謝りなさい!」
「ごめんなさい」
 両親はいつも麗美に味方する。
 そこで麗美が思い出したように言った。
「あっ、むかついたから叩いちゃったけど別に問題ないでしょ?」
 母が微笑(ほほえ)みながら言った。
「そりゃあ麗美は’’特別”だもの。麗美と比べたらこんな子、不吉なだけだもの。でも流石(さすが)妖術(ようじゅつ)は使っていないわよね?」
「そこは手加減(てかげん)してるし大丈夫。」
「麗美は(えら)いわね。」
 別に両親は血のつながりはある。
 妹の麗美だって血のつながった妹だが、麗美は特別で美桜は不吉だからか格差(かくさ)がある。
 そう、麗美は最も地位が高く、容姿端麗(ようしたんれい)なあやかしとして名高い鬼の花嫁なのだ。
 花嫁となったのは2年前。麗美は幼少期(ようしょうき)に妖術があることが分かったときから出席している、人で妖術を持つ者やあやかしたちが相手を探す観桜(かんおう)パーティーに出席していて、そこで鬼塚玲央(おにづかれお)見初(みそ)められた。
 麗美は人ならざる力、”妖術”を持っていた。
 あやかしは普通ならあやかし同士で結婚するが、例外がある。
 人間で(まれ)に妖術を持つものが花嫁となれるのだ。
 妖術があるとわかったのは麗美が5歳のころ。
 あやかしや龍神(りゅうじん)は生まれながらに妖術を持っているが、人である花嫁の妖術があると分かるの時期は5~7歳ごろとされる。
 だが、美桜が家族に(しいた)げられているのは麗美が妖術があるとわかってからではない。
 美桜は生まれつき銀髪(ぎんぱつ)碧眼(へきがん)の持ち(ぬし)だった。
 普通、そのような者が一家に生まれたら大喜びし、それはそれは大事に育てられるのだが。
 龍神。
 多くのあやかしが住む都、天龍都(てんりゅうと)を治める神だ。
 龍神の花嫁となれる者には生まれつき銀髪・碧眼そして人間であるにもかかわらず、妖術が(そな)わっている。
 それにもかかわらず、美桜は妖術だけを持っていなかった。
 このような不吉な子はいつか家に(わざわ)いを呼び込むに違いないと散々(さんざん)いじめ抜かれてきた。
 いつか自分も麗美のように誰かに大事にされ、愛されることはあるのだろうか。そんなことを考えながら眠りについた。