碧斗は、初めて会ったときの柚子を思い出した。あのときも、殴られて、顔に傷を作っていた。柚子はずっと変わっていないのに、自分が勝手に同じ感情を持つことを求めていただけなのかもしれない。碧斗は、柚子の頭に手を置いて言った。
「柚子とのことは、みんなに関係ない。心配してくれるのはうれしいけど、放っておいてもらえるかな」
きっぱりとした碧斗の言い方に、これ以上柚子に嫌がらせをするのは許さないという意思を感じ取って、まわりの生徒たちはシュンとなった。
しかし、当の柚子は、碧斗の手からするりとすり抜け逃げ出して行く。柚子は、中庭に入りかけて人垣を見て引き返そうとしていた男子生徒を見かけて、引き留めようとしたのだった。柚子は、その彼を捕まえて、何事か訴えている様子。彼は、仕方なさそうな顔をして、柚子の肩をなぐさめるように叩いた。そして、碧斗をちらりと見て、柚子と一緒に中庭から出て行った。
彼は、碧斗の同級生で、あとで柚子から聞いたところによると、柚子との出会いとなったケンカで、柚子が割って入ったから助かったくせに、さっさと逃げて行った生徒だった。本ばかり読んでいて、誰かと話しているところを見かけたことがなく、碧斗が挨拶しても無視するような男だった。
柚子がこれ以上嫌がらせを受けないように、「情けない」と言われても我慢してかばったというのに、自分の前から逃げ出して彼を追いかけたことに、碧斗はショックを受けていた。しかも、なぐさめてもらっている様子は、ずいぶん柚子が彼に心を許しているようにも見える。
柚子は、自分を楽しませてくれる「人気者」にしか興味がないはずじゃなかったのか。それなのに心を許したのだとしたら、柚子は本気だということか。確かによく見れば、柚子好みの切れ長の目をした凛々しい顔をしている。
碧斗は、二人を追いかけ、中庭を出て並んで歩いていたところを呼び止めた。そして、振り返った柚子に言った。
「俺と寝るんじゃなかったのか」
「そのつもりだったけど、碧斗くんが、もう付き合う気はないらしいから」
「……馬鹿にするなって言っただけ」
「じゃあ、どういうこと?」
「また付き合うってことなんじゃないの?」
同級生の男が言葉を発したことに驚きながらも、碧斗は柚子を抱き寄せて肯定した。
意外にも、うれしそうに碧斗の背中に腕をまわす柚子。
「言うとおりだった」
「え?」
「柚子とのことは、みんなに関係ない。心配してくれるのはうれしいけど、放っておいてもらえるかな」
きっぱりとした碧斗の言い方に、これ以上柚子に嫌がらせをするのは許さないという意思を感じ取って、まわりの生徒たちはシュンとなった。
しかし、当の柚子は、碧斗の手からするりとすり抜け逃げ出して行く。柚子は、中庭に入りかけて人垣を見て引き返そうとしていた男子生徒を見かけて、引き留めようとしたのだった。柚子は、その彼を捕まえて、何事か訴えている様子。彼は、仕方なさそうな顔をして、柚子の肩をなぐさめるように叩いた。そして、碧斗をちらりと見て、柚子と一緒に中庭から出て行った。
彼は、碧斗の同級生で、あとで柚子から聞いたところによると、柚子との出会いとなったケンカで、柚子が割って入ったから助かったくせに、さっさと逃げて行った生徒だった。本ばかり読んでいて、誰かと話しているところを見かけたことがなく、碧斗が挨拶しても無視するような男だった。
柚子がこれ以上嫌がらせを受けないように、「情けない」と言われても我慢してかばったというのに、自分の前から逃げ出して彼を追いかけたことに、碧斗はショックを受けていた。しかも、なぐさめてもらっている様子は、ずいぶん柚子が彼に心を許しているようにも見える。
柚子は、自分を楽しませてくれる「人気者」にしか興味がないはずじゃなかったのか。それなのに心を許したのだとしたら、柚子は本気だということか。確かによく見れば、柚子好みの切れ長の目をした凛々しい顔をしている。
碧斗は、二人を追いかけ、中庭を出て並んで歩いていたところを呼び止めた。そして、振り返った柚子に言った。
「俺と寝るんじゃなかったのか」
「そのつもりだったけど、碧斗くんが、もう付き合う気はないらしいから」
「……馬鹿にするなって言っただけ」
「じゃあ、どういうこと?」
「また付き合うってことなんじゃないの?」
同級生の男が言葉を発したことに驚きながらも、碧斗は柚子を抱き寄せて肯定した。
意外にも、うれしそうに碧斗の背中に腕をまわす柚子。
「言うとおりだった」
「え?」