二人が別れたという話は、あっという間に広がり、新学期が始まる頃には、全校生徒が知るところとなっていた。詳しいことはわからないが、あの碧斗を振る女がいるとは思えないから、きっと柚子が振られたのだろうというのがもっぱらの噂だった。そして、振られた柚子は、さぞかし落ち込んでいるだろうと思われたが、新学期初日、予想外に元気よく学校に現れた。
 柚子は、碧斗と別れたと知っているクラスメートたちに、碧斗たちと行った旅行先で買ったお土産を渡し、ホテルがすごくよかったと話して戸惑わせた。
 さらに、三階の二年生の教室から、校舎の外を歩いている碧斗の友人たちを見かけ、碧斗がその中にいるにも関わらず、以前と変わらず、親し気に声をかけて元気よく手を振った。柚子をちらりと見て、表情を変えず何も言わない碧斗に、友人たちはかえって心配になって言った。
「お前、大丈夫か?」
「何が?」
「いや、まさか、お前、落ち込んでないよな?」
「そんなわけないだろ」
「だよな。お前が振ったんだろうし。理由はわからんけど」
 実際のところ、いつもと変わらない柚子の様子を見て、気分がよくない碧斗だったが、曖昧に笑って誤魔化した。
 柚子は、旅行先で碧斗に別れを告げられたとき、これまでの楽しい生活を思い出して、なるべくなら別れたくないと思ったが、学校でも一目置かれる憧れのグループの人々と、かなり仲良くなったし、碧斗抜きでも楽しくやっていけるだろうと考えて、あっさりと別れを受け入れたのだった。
 しかし、柚子の予想に反して、碧斗の彼女という地位を失った柚子に、周囲は一気に冷たくなった。新学期初日、柚子は、いつもの調子で話しかけたり、遊びに行こうと誘ったりしたが、反応がほとんどないくらいに薄く、いつの間にか周りに誰もいなくなっていた。そもそも、美女でもなく、むしろ男の子みたいな外見のくせに、みんなのアイドル的存在の碧斗を独占していた柚子は特に女子に妬まれており、また、生意気な性格で男子にも受けが悪かった。
 数日は我慢したものの、これからのつまらない高校生活を想像し、この状態であと2年過ごすのは耐えられないと思った柚子は、碧斗とヨリを戻した方がいいと考えた。そして、柚子は中庭に行き、一大決心を伝えた。しかし、人前で碧斗を怒らせたことで、かえって状況を悪化させてしまったのだった。