二人の様子にくぎ付けだった生徒たちは、碧斗に振られた哀れな柚子を見て、満足そうに笑った。
 柚子は、足早に去っていく碧斗を、かなり不満そうな表情で見送った。

 翌日から、柚子は、学校中の生徒の共通の敵となった。誰もが愛すべき碧斗を煩わせる最悪な存在として、校内あげての制裁のターゲットとなったのだ。
 しかし、柚子は、ほんの少し前までは、碧斗の彼女として、正反対の立場にいた。
 昨年の春、二年生の碧斗は、まだ幼さの残る新入生らしき男の子が、上級生の男子と取っ組み合いのけんかになっているのを見つけて、止めに入ったことがあった。体格差からくる力の差は歴然としていて、新入生はすでにかなり殴られ、顔にも傷を作っていた。話を聞くと、そもそも上級生の横暴に何も言えずに言いなりになっていた男子がいて、あまりの情けなさに、つい口をはさんだところ、取っ組み合いのケンカに発展したとのこと。その男子はすでに逃げていなかったが。碧斗は、この外見は可愛らしいくせに中身は男らしい新入生を気に入って、見かけるたびに声をかけるようになった。しかし、すぐに男の子ではなく、柚子という女の子だと知り、衝撃を受けた。それから碧斗は柚子が目につくようになり、いつの間にか恋をしていた。碧斗が付き合ってほしいと告白すると、柚子が軽い調子で承諾して、交際が始まった。
 それから一年近くが経過して、二人はそれなりに仲良く過ごしてきたが、その場が楽しければ誰とでも親しく仲良くする柚子に、碧斗は、自分が柚子にとって本当に特別な存在なのか、ずっと確信が持てずにいた。
 学年があがる春休み、いつものグループで行った旅行先で、碧斗の幼なじみたちの「配慮」から、柚子と碧斗が同じ部屋に泊まることになった。
 夜遅く、碧斗は、部屋のソファで映画を見ていた柚子の隣に座り、大きく腕を回して、優しくキスを始めた。柚子の手が碧斗の胸元を押さえる。
 いつもなら、少しすると、急にやらなければならないことを思い出した柚子がしゃべり出したり、何かの物音に驚いた柚子が笑いだしたりして中断するのだが、今日は、高層の夜景を臨む部屋のロマンチックな雰囲気のせいか、碧斗にはいつもにはない有無を言わせない強引さ感じられた。
 碧斗は柚子をソファに押し倒し、首筋にキスをして、Tシャツの中に手を入れた。
「やだ!」