今日もこの町に夕焼けが広がっている。
夕焼け公園は春と呼ぶにはまだ寒く、日暮れもあっという間に終わるだろう。
今日の予報は曇りだったけれど、空には雲ひとつ残っていない。
天気予報は当たらない日が多い。
だからこそ、おもしろいと思える自分がいる。
高校の卒業証書を眺めてから筒のケースにしまった。
「悠花」
茉莉の声にふり向こうとすると、冷たい手で両目をふさがれてしまった。
「ふり向いちゃダメ、って約束したでしょ!」
「だって、茉莉が呼ぶから」
隣のベンチに座った茉莉は、ずいぶん大人っぽくなった。
メイクもうまくなったし、なにより髪がロングになっている。
卒業したよろこびより、別々の大学に進むことがさみしい今日だ。
「まもなく到着するって伸佳から連絡あったよ」
「ふふ」
「ニヤニヤしちゃって」
頬をツンツンする茉莉に、
「くすぐったいよ」
と体をくねらせる。
「雨星がどういう意味なのか、悠花はわかったの?」
茉莉が夕空を指さし尋ねた。
「ううん。まだわからない。ただ、雨が関係しているのはわかったくらい。今日、見られればいいなって思ってたんだけど、この天気だしね」
きれいな夕空は黄金色に燃えているみたい。
「いいじゃん。卒業式に雨なんて最悪だし」
公園の入り口で車が停車する音が聞こえた。
きっとタクシーだろう。
「まだふり向くなよ!」
一緒に乗ってきたのだろう、伸佳の声が聞こえた。
今日までずっとこの日が来るのを楽しみに生きてきた。
その日が来たならきっと緊張してしまう、とか、泣き出してしまう、とか。
頭の中では何度も想像してきたけれど、いざとなればうれしさしかないんだね。
「がんばってね」
耳元で告げると、茉莉は私から離れた。
ゆっくり私も立ちあがる。
「悠花」
やさしく私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
ずっとずっと会いたかった彼が私を迎えに来てくれた。
「大雅、お帰りなさい」
ふり向けば、夕空の下に太陽みたいに笑う君がいたんだ。
私はこれから君に伝えよう。
長い告白の返事を。
明日からの私のことを。
未来のふたりのことを。
世界はふたりのために輝いているよ、今日も明日も、未来も。
【完】
夕焼け公園は春と呼ぶにはまだ寒く、日暮れもあっという間に終わるだろう。
今日の予報は曇りだったけれど、空には雲ひとつ残っていない。
天気予報は当たらない日が多い。
だからこそ、おもしろいと思える自分がいる。
高校の卒業証書を眺めてから筒のケースにしまった。
「悠花」
茉莉の声にふり向こうとすると、冷たい手で両目をふさがれてしまった。
「ふり向いちゃダメ、って約束したでしょ!」
「だって、茉莉が呼ぶから」
隣のベンチに座った茉莉は、ずいぶん大人っぽくなった。
メイクもうまくなったし、なにより髪がロングになっている。
卒業したよろこびより、別々の大学に進むことがさみしい今日だ。
「まもなく到着するって伸佳から連絡あったよ」
「ふふ」
「ニヤニヤしちゃって」
頬をツンツンする茉莉に、
「くすぐったいよ」
と体をくねらせる。
「雨星がどういう意味なのか、悠花はわかったの?」
茉莉が夕空を指さし尋ねた。
「ううん。まだわからない。ただ、雨が関係しているのはわかったくらい。今日、見られればいいなって思ってたんだけど、この天気だしね」
きれいな夕空は黄金色に燃えているみたい。
「いいじゃん。卒業式に雨なんて最悪だし」
公園の入り口で車が停車する音が聞こえた。
きっとタクシーだろう。
「まだふり向くなよ!」
一緒に乗ってきたのだろう、伸佳の声が聞こえた。
今日までずっとこの日が来るのを楽しみに生きてきた。
その日が来たならきっと緊張してしまう、とか、泣き出してしまう、とか。
頭の中では何度も想像してきたけれど、いざとなればうれしさしかないんだね。
「がんばってね」
耳元で告げると、茉莉は私から離れた。
ゆっくり私も立ちあがる。
「悠花」
やさしく私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
ずっとずっと会いたかった彼が私を迎えに来てくれた。
「大雅、お帰りなさい」
ふり向けば、夕空の下に太陽みたいに笑う君がいたんだ。
私はこれから君に伝えよう。
長い告白の返事を。
明日からの私のことを。
未来のふたりのことを。
世界はふたりのために輝いているよ、今日も明日も、未来も。
【完】