「どこへ向かっているの」

 そう問い掛けたら、男が小さな動作で水牛の歩みを止め、肩越しにアラタを振り返ってきた。
 その瞬間、向かう先が黄金色の光りに包まれた。強く輝き出した眩しさで、逆光を受けた男の顔がよく見えない。腕で光を遮ってどうにか目を凝らしたものの、男が口元にわずかな微笑を浮かべていることしか見えなかった。

 不意に、現実世界に意識が引っ張られるのを感じた。夢からの目覚めが迫るのを感じたアラタは、堪え切れず目尻に涙を浮かべて「父さん!」と光の中で叫んだ。

「俺は無事ッ、大学三年生になりました! 友達のおかげで元気にやってるし、俺、おれ……っ、父さんに『ごめんなさい』って言いたかったんだ」

 ごめん、と口にした途端に涙が溢れた。悔いと罪悪感に胸が貫かれて、痛くて辛くて悲しくて、みっともなくボロボロと涙をこぼしながら言う。

「真面目に頑張れって言われてたけど、一人で寮暮らしが始まった高校からは特にクソガキで、意地張って連絡もしなかったのを後悔して、それに俺、あんたには『ごめん』だけじゃなくて『ありがとう』も伝えてない…………」