時は平安。
東方にある小さな国の民は、人ならざる者、あやかしとの共存を果たしていた。
其の国を、日本国という。
人や物や権力に溢れた国。海に囲まれたとても小さな離島でありながら、そこは宝石の如く光り輝いていた。雅な文化が栄え、人々は華やかな着物に身を包み、鮮やかな装飾品で自身を着飾り、豪華な食事に舌鼓を打つ。豪華絢爛、という言葉は日本国のためにあるように思えた。
しかし、それは身分の高い貴族に限った話。
光り輝く世界があれば、当然、闇の中でひっそりと生きる者もいる。というより、生涯目立つことはない身で暮らす庶民の方が明らかに多かった。
庶民はもちろん、貴族のように贅沢はできない。生まれたときから仕事を与えられ、毎日汗水を流しながら命の灯火を繋いでいく。生まれた時から、彼らの運命はそう決まっているのだった。
だが、例外はあった。それは女性だ。
彼女たちは、生まれた家柄が永遠、というわけではなかった。自分の人生を、大きく変えることが可能であったのだ。
何故か。
その理由は、日本国が一夫多妻制だったからであった。男は好きな女を何人でも妻として娶って良い。また、女も好いた男をいくらでも夫として良い。そんなことが、世間一般で許されている時代。
故に、日本国の男女は複数の相手と縁を結び、生涯を過ごした。妻夫が指の数ほどいるのは、最早常識と化していた。
しかし、そんな時代背景の中でも、一人の女にしか愛情を注がなかった者がいたという。
それは、日本国を統べる男、帝であった。
仕来りたりなのか偶然なのかは誰も知る由もないが、帝となる男はたった一人の女しか妻として受け入れなかった。数多なる女の中から選びぬかれた者は、生涯帝の寵愛を受けながら生きると言われている。
その女、つまりは帝の妻を、番と言った。
この時代の女にとって、帝の番となることほどの名誉はない。その座は女たちにとって憧れの席であった。
だが、帝が何を基準にして番とする女を選ぶのかは明確になっておらず、また時期も不明。
よって日本国の女らは、何人もの自身の夫と時を過ごしつつ、日々自分を磨いていた。帝が番を選ぶ、その日を心待ちにして。