今日も茜は俺の隣で熱心に宝石のような名前のプログラムコードをひたすら書いている。熱量を込めてキーボードを叩く音が煩わしいと思うこともあるが、そんな時はイヤホンを耳に突っ込んで、好きな音楽に浸っておけば問題ない。

 そこまでパソコンオタクでもない僕は、そんな茜の隣でコードが解らなくても作れるWebサイトを作るのを日課にしている。

 いくつかあるデザインのテンプレートから自分に刺さるものを選び、そこから色やボタンの装飾を変えていく作業はそれなりに面白かった。

 けれど、今日は意味もなく背景の写真を変えてみたりファビコンを変えてみたりと、ただダラダラ弄っているだけで何一つ進まない。目の前のことに集中ができていない。

 「悪い。ちょっと教室行ってくる」

 「おー、いってら」

 ディスプレイから視線を逸らさず、でも律儀に見送りの言葉をかけてくれる茜はやっぱり良い奴だ。

 パソコン部だからと言って、ずっと画面を眺めていなければならないという訳ではない。

 見回り程度にしか顧問の先生が来ないパソコン室は、いつも若干無法地帯のようになっていて、キーボードを片付けて大胆に漫画を大量に広げている奴らもいれば、教室の隅に集まって携帯ゲームを楽しんでいる奴らもいる。

 教室に戻るのは、決して漫画を取りに行くのではない。惰性に任せてパソコンの画面を見つめるくらいなら、来週行われる小テストの勉強をしておいたマシだと思ったからだ。

 せっかく勝ち取った幸先の良い高校生活をわざわざ手放してしまうわけにはいかない。

 学年一位を取り続けることが使命のようになってしまっているけれど、居心地が良いポジションを守るためには仕方がない。そう自分に言い聞かせながら、教室へと向かう。