柿谷さんと栗林さんが、まるで友達に絡むかのように担任の荒木先生に突っかか離始めたのは、入学早々間もない頃だった。

　おそらく荒木先生は教師になったばかりなのだろう。僕らとさほど年が離れていない新米の教師は、柿谷さんの馴れ馴れしい態度をすんなりと受け入れていた。

　その時、柿谷さんのグループが教室の空気を作っていくんだと、俺を含むクラスの大半が直感的に理解した。

　案の定、柿谷さん達が授業中でメイクをしようが大声で騒ごうが、煩わしいと思いながらも誰もが無言で許容した。もちろん荒木先生でさえも。

　少なくとも初めの方は、授業中に騒がしいと授業をしている教科の先生が一喝することで秩序が保たれていた。

　けれど、やがて先生達も根を上げたのか、日を増すごとに何も言わなくなり、騒がしいまま授業が続けられるのが日常になった。

　力の無いものは、沈黙によって自分を護るのが常識だ。

　けれど穂花はそのことを理解できずにいた。穂花は度々教室中に漂った整髪剤や香水の匂いがきつい日には、躊躇わずに「わっ！くさっ！」と、大きめの声で言って、度々教室の空気を凍り付かせていた。

　あいつは昔からそういう奴だ。