穂花は自分の机の引き出しを覗き込んで引き出しに手を突っ込んだ。

 そして机の中から、くしゃくしゃになったプリントやお菓子の袋が出てきた。

 「まただ……」

 穂花は慣れた手つきで自分の机をひっくり返し、散らばった教科書やノートを椅子の上に乗せる。そして残ったゴミを拾い集め、教室の隅にあるゴミ箱にそれを投げ入れた。

 何人かの生徒が、それをただ黙って観察していた。

 僕も自分の席でさっき買ってきたカロリーメイトを齧りながら、耳と気配だけで彼女の様子を観察する。

 別に驚くことはない。

 穂花はまた失敗してしまっただけだ。

 穂花は片付けが終わって椅子に座ると、教室にいるすべての人間に聞こえるくらいの大きさで溜息を吐いた。

 それがどういう意味だったのか、どんな感情が込められていたのかはわからない。

 でも、その溜息が教室に潜んでいる犯人に対し、十分すぎるほどの敵対意識を現している。そのことを、僕を含めた何人かの人間が直感的に理解した。

 案の定、すぐにクラスで一番声が大きい柿谷さんが舌打ちで応戦する。

 教室の空気が一変した。

 当の本人に舌打ちが聞こえていないのがせめてもの救いだ。

 放っておけば良いのに、柿谷さんとつるんでいる栗林さんがわざとらしく穂花の方に駆け寄る。

 「橘さん、大丈夫ー?」

 「大丈夫だよ。すぐに片付けられるし」

 穂花はそこにいる栗林さんの方には向かず、起き上がらせた机に教科書を突っ込みながらそう言った。教科書を乱雑に扱う穂花に圧倒されたのか、栗林さんの表情は少し強張っているように見える。

 「だ、誰がこんなことしたんだろうね。ひどいよね。ねえ、ちょっと!橘さんってば……!」

 穂花は表情ひとつ変えていない。もう辞めとけって。

 よっぽど無視されたことが頭にきたのだろう。栗林さんは感情を込めて睨みつけてから、ようやく柿谷さんがいるグループに戻っていった。

 その後授業が始まるまでの空気が最悪だったのは、言うまでもない。