「確かにあの時、私は自分ではどうすることもできないくらいに追い詰められていた。だから、ずっと新川先生に相談していたの」
 新川先生は穂花の視線を受けると、優しく頷いた。

 僕だけじゃなかった。新川先生はずっと味方でいてくれてたんだ。

 「でも、段々とそのこともみんなに知られて、報復されるかもって思うと怖くなってきて、段々と先生にも相談できなくなっていったの。あの時ただじっと耐えることしかできなくて、本気であの時人生詰んだって思った」

 「そっか、苦しかったよな……」

 「そりゃあもう、死んじゃいたいって思うくらいに。でもね、そんな時に楓がお昼休みに一緒にお弁当食べようって誘ってくれて。あれ、本当に嬉しかったなあ」

 「で、でも、その後僕はあの場所に行かなくなったし、穂花にひどいことも……」

 「私を救うために、わざとカバンを落としたんでしょ」

 「……知ってたのか?」

 「そりゃあ、何年も一緒にいたから、あの時楓が何を考えていたかなんてわかってたよ。それに、楓が私のカバンを落とした時、顔が真っ青になって手が震えてた。一所懸命悩んだ上で伝えてくれたんだって、すぐにわかった」

 「で、でも、そのあと連絡も取れなくなったし……」

 「ごめんなさい、新川先生と約束してたの。もし学校に来られなくなった時は、精神的にかなり参っちゃってる状態だから、クラスメイトとはしばらく連絡しないって。本当は楓にきちんと話したかったんだけど、あの後本当に体調が悪くなっちゃって……。しばらくしてから連絡しようとしたんだけど、もう連絡もつかなくて、ずっと申し訳ないって思ってたの。本当にごめんなさい」

 「そう……だったのか」

 あの時、何度も取り返しのつかないことをしてしまったと自分を恨んだ。

 時間が経つと、次第に自分に言い聞かせるようになった。

 正解なんてあるはずがない、答え合わせに意味はない、だから自分がしたことは間違っていなかったんだと。

 「正直に教えてほしい。あの時の選択を、後悔していないか?」

 「もちろん。あの時楓がいなかったらって考えたら、ちょっとゾッとする。私ね、あのあと通信制の高校に転校して、ちゃんと卒業できたんだよ。何度も言うけど、楓には本当に感謝してる」

 ずっと願うだけだった。

 でも、もうその必要がなくなった。

 「良かった……」

 溜め込んでいた感情が、また流れ出る。

 今度は上を向くことはせず、構うことなく涙のままの笑顔を向けた。