昇降口の裏手には、公園のようにベンチや机が並んだ休憩スペースがある。新川先生は自販機の前に来ると、百円玉を入れた。
断ろうかと迷ったけれど、これから上司となるかもしれない先生を立てておく方が良いという意味で、冷たいストレートティーのボタンを押しておく。
「ここで少し待ってて」
促されるまま一番近くのベンチに座ると、新川先生は昇降口の出入り口の方に駆けて行った。ガラス扉の向こうには、さっきタブレットに絵を描いていた女の子が見える。
新川先生が後ろから肩を叩くと、女の子はゆっくりと振り向いた。そして新川先生だとわかると、すぐに立ち上がって、まるで幼い少女のように思いきり抱きついていた。どうやら彼女も久々の再会らしい。
それから二人は楽しそうに談笑していたから、僕はベンチに座り、さっき先生に買ってもらったストレートティーの缶を開けて一口だけ口に含む。
しばらくすると二人は談笑を終えたのか、ガラスの扉を開けて中に入ってきた。
新川先生の後ろにいた彼女と目が合う。彼女は少しはにかんだ表情を僕に見せる。
忘れかけていた輪郭が、はっきりと形を現す。
丁寧に整えられた短めの黒髪は、陽の光が当たるといつも栗色に見えていた。雨の日になるとよく毛先が跳ねていて、本人はそれが気になるのか、話す時にいつも髪を触っていたっけ。
けれど、目の前にいる彼女を直視するのは難しく、すんなりとそれを受け入れるのは難しく、何度も自分の目を疑った。
だって、目の前にいるのは。
「楓、だよね」
「……穂花」
「……楓だ……本物だ……本物だあ……!」
あの頃よりも少しだけ大人びた顔が見せる笑顔は、あの頃よりも何倍も輝いている。
良かった。ちゃんと護れてたんだ。
「ちょっ……楓?なんで泣くのよ、もうっ!」
言われてようやく涙が溢れていることに気が付いた。
慌てて顔を上げるけど、次々と溢れてくる涙を堰き止めることはもうできない。
「穂花だって泣いてるじゃんか」
「だって……嬉しいんだもん。また会いたいって、ずっと思ってたんだから……」
そうだ、穂花はいつも思ったことをまっすぐに伝えてくれる。
だったら僕も、ずっと思っていたことを伝えなければいけない。
謝罪したからって、過去が清算されるわけではない。赦して欲しいだなんて思わない。
「僕も会いたかった。あの時のことを謝りたかったんだ。本当にーー」
「待って。謝らないでよ」
「え……?」
「あの時いっぱい助けてくれたじゃん」
穂花は僕の隣に静かに座った。
断ろうかと迷ったけれど、これから上司となるかもしれない先生を立てておく方が良いという意味で、冷たいストレートティーのボタンを押しておく。
「ここで少し待ってて」
促されるまま一番近くのベンチに座ると、新川先生は昇降口の出入り口の方に駆けて行った。ガラス扉の向こうには、さっきタブレットに絵を描いていた女の子が見える。
新川先生が後ろから肩を叩くと、女の子はゆっくりと振り向いた。そして新川先生だとわかると、すぐに立ち上がって、まるで幼い少女のように思いきり抱きついていた。どうやら彼女も久々の再会らしい。
それから二人は楽しそうに談笑していたから、僕はベンチに座り、さっき先生に買ってもらったストレートティーの缶を開けて一口だけ口に含む。
しばらくすると二人は談笑を終えたのか、ガラスの扉を開けて中に入ってきた。
新川先生の後ろにいた彼女と目が合う。彼女は少しはにかんだ表情を僕に見せる。
忘れかけていた輪郭が、はっきりと形を現す。
丁寧に整えられた短めの黒髪は、陽の光が当たるといつも栗色に見えていた。雨の日になるとよく毛先が跳ねていて、本人はそれが気になるのか、話す時にいつも髪を触っていたっけ。
けれど、目の前にいる彼女を直視するのは難しく、すんなりとそれを受け入れるのは難しく、何度も自分の目を疑った。
だって、目の前にいるのは。
「楓、だよね」
「……穂花」
「……楓だ……本物だ……本物だあ……!」
あの頃よりも少しだけ大人びた顔が見せる笑顔は、あの頃よりも何倍も輝いている。
良かった。ちゃんと護れてたんだ。
「ちょっ……楓?なんで泣くのよ、もうっ!」
言われてようやく涙が溢れていることに気が付いた。
慌てて顔を上げるけど、次々と溢れてくる涙を堰き止めることはもうできない。
「穂花だって泣いてるじゃんか」
「だって……嬉しいんだもん。また会いたいって、ずっと思ってたんだから……」
そうだ、穂花はいつも思ったことをまっすぐに伝えてくれる。
だったら僕も、ずっと思っていたことを伝えなければいけない。
謝罪したからって、過去が清算されるわけではない。赦して欲しいだなんて思わない。
「僕も会いたかった。あの時のことを謝りたかったんだ。本当にーー」
「待って。謝らないでよ」
「え……?」
「あの時いっぱい助けてくれたじゃん」
穂花は僕の隣に静かに座った。