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「遅くなってごめんなさい。久しぶりね、日野くん」
「新川先生、お久しぶりです。ひょっとして、先生が指導してくださるんですか」
「教えたいのは山々なんだけど、私はまだ指導できる立場じゃないのよね。ちょっとついて来てもらえる?」
数年ぶりに合った新川先生は、あの時と変わらないあどけなが残っていた。
「まさか日野くんとこういう形で再会できるなんてね。元気だった?」
「相変わらずです。先生の方こそ、お元気そうで何よりです」
「ふふっ、随分他人行儀だこと。ほんと、大人になったね、日野くん」
「どこに向かっているんですか?」
「実はね、日野くんにどうしても合わせたい人がいるの」
新川先生は悪戯っぽく笑った。
後ろをついて歩いていると、先生は廊下の窓から見える雲ひとつない空を眺めながら、懐かしむように言った。
「三年間頑張ってたよね。先生達みんな感心してたよ」
「まあ、あの頃はいろいろ必死でしたから」
時間が経てば過去の自分を肯定し、行いを美化してくれる。ある程度は。
「その必死さは、私たちにも十分伝わっていたよ」
「……」
何のことを言っているんだろう。
「今だから言えるけどね。日野くんが取った行動、私は立派だと思う」
「……え?」
何のことを言っているんだろう。
「私達は知ってた」
何の、ことを。
新川先生は、知っていたのだろうか。
僕が穂花の心を折ったことを、知っていたのだろうか。
穂花だけを助けるのであれば、違う選択が出来たはず。なのにわざわざ傷つけるようなマネをしたのは、自分自身の保身もあったから。
そのことも、新川先生は知っていたとでも言うのだろうか。