でも、僕らは疲れきっていた。

 関わることに、振り回されることに、そして演じることに。

 取り巻く全てのものに、辟易としていた。

 築き上げたものを、壊してしまいたかった。

 穂花を救うため?

 違う。それは、建前に過ぎない。

 本当は、自分自身を救いたいだけなのかもしれない。

 本当にダサい。

 終わらせるには丁度良い。

 だけど、最後に足掻かせてほしい。

 穂花は大きな傷を負うかもしれない。僕のことを一生恨むかもしれない。死ぬまで赦さないかもしれない。

 でも、それで良い。

 彼女がずっと笑っていられるチャンスが作れるのなら。

 今日まで一緒にいられて、本当に良かった。


 僕は覚悟を決めて、カバンを払い落とした。


 カバンは地面とぶつかると、鈍い音を立てて軽くひしゃげる。

 予想外の行動に誰もが驚いていた。その証拠に教室はざわつき、視線は僕だけに集まった。

 けれどやっぱりそれは一瞬の出来事に過ぎなかった。

 最初は何事かと思って僕を見ていたが、事態を把握した者から視線が逸らされていく。相変わらず意識だけはこちらに向けられたままだけれど。

 穂花は怒るわけでもなく、ショックを受けるわけでもなく、静かにカバンを拾い上げ。大事そうにそれを抱え直す。そして何事もなかったように、静かに自分の教室へと戻って行った。

 見間違いではないだろうか。

 今まで見た中で最も穏やかなに笑っていたような。

 大事なものを自らの手でズタズタに引き裂いてしまったような感覚。虚無感と解放感が同時に押し寄せ、視界ばぼやけてくる。

 ーー日野君ってそんなことする人だったんだ。

 ーー意外とヤバい奴?

 ーーでもさ、ちょっとすっきりしたかも。

 ーーそれな。見直した。

 泡のように湧いては消える低俗な言葉は、意外にも僕を肯定するものが多く、それを受け入れる自分も含めて、ひどく失望した。

 思考の仕方がわからなくなる。立ち尽くすのに精一杯だった。

 代償は大きかった。