僕達は敏感で流されやすいくせに、刺激を欲するからタチが悪い。

 餌食になるのは、いつも上手く振る舞えなかった人間と、それに関わる人間だ。

 学年一位の優等生と、耳が遠くてズレたことを言う奴が付き合っているという噂は、奴らの退屈な日常を少しくらいは埋められただろうか。

 僕は熱りが冷めるまで、なるべく茜と過ごすことにした。

 いつもの階段に突然来なくなった事にひどく落胆しているかもしれない、けれど今は緊急事態だから勝手を許して欲しい。

 購買に行くついでに、さりげなく隣の教室を覗いてみた。けれどそこに穂花の姿はない。

 もしかして西棟の階段で僕を待っているのだろうか。だとしたら、本当に申し訳ない。いや、意外と勘が鋭いあいつのことだから、僕の考えていることがわかっているのかもしれない。

 ーー見て、一組の日野君が来てるよ。

 ーー本当だ、橘さんを迎えに来たとか?

 ーーうそお……。やっぱり付き合ってんじゃん。

 近付くだけでこの有様だ。関係の無い人間の関係の無い言葉にいちいち腹が立つ。さっさとここを離れた方が良さそうだ。

 そう思った矢先、今一番会いたくない人間が目の前に現れた。

 「楓、どうしたの?」

 「ほの……か」

 どうしてこう……。

 ズレている奴は狙ったように最悪なタイミングに現れるのだろう。

 無視すべきだった。

 黙って自分の教室に戻れば良かった。

 ーー今さ、下の名前で呼び合ってたよね。

 ーーまじで付き合ってたんだ。

 幸いこの会話は穂花の遠い耳には届いていない。

 「楓、ごめんね。私、これからお昼は一人で食べることにしたから」

 「あ、ああ……」

 声は聞こえずとも視線くらいは感じるだろうと思ったけれど、穂花はそんなこと気にもせず、申し訳なさそうにそう言った。

 ーーえ、待って、振られてるじゃん。

 ーーマジで?追いかけないのかな。

 教室を後にした穂花の見るからにやつれた表情が頭に残る。けれど、僕にはもう他人を心配する気力なんて残ってはいない。

 どこまでズレてるんだこいつはと、護るべき対象を憎むことでしか、自分を保つことができない。

 何もかもぶっ壊してしまい。心の底に眠っている何かが音を立てて崩れる。


 気付くと教室の扉を殴っていた。

 殴った右手の拳は物理的な痛みをほとんど感じない。代わりに今まで押さえていた汚い自分を外に出してしまったことに対する悔しさが湧いてくる。

 目の前にいた奴は少しばかり驚いていたようだったけれど、巻き込まれたくないと思ったのだろう、すぐに何事もなかったかのように視線を逸らしていった。

 僕はその場から逃げるように立ち去った。

 ほらみろ、何一つ変えられないじゃないか。

 護るべきものは一体何なのかがわからない。