お昼休みのチャイムが鳴る。

 体育館からはさほど離れていないのに、既に購買は先客で賑わっていた。きっと授業をサボっている連中が先に訪れているのだろう。

 僕はすぐに売り場にあるパンを選ばずに二つ手に取ってお会計を済ませる。

 そして人目を気にしながら、西棟の三階へと向かう。

 西棟の三階は特別教室しか存在しないし、数年前に西棟の屋上から生徒が飛び降りたという子供じみた噂のせいで、ほとんど人は寄りつかない。屋上へと続く扉に厳重な鉄格子がされているから、その噂は単なる作り話でもなさそうだ。

 一時期はどうしようもない連中の溜まり場になっていたらしいが、僕らが入学してすぐに生徒指導の先生達が立ち入って以降、この辺りの治安はずっと守られ続けているみたいだ。

 稀に告白スポットになることもあるみたいだが、さすがに先生達は生徒の青春には寛容らしく、それについては何も言及されなかった。

 僕らは大人に近づくにつれて、見過ごされる機会が多くなる。先生という大人の管理下から、徐々に善悪を自己責任しなければいけなくなる。

 階段の踊り場付近に座り、購買で適当に買った焼きそばパンのビニールを破く。風が通らないこの場所は湿気のような匂いがして、どう考えてもお昼を食べる場所には向いていなさそうだ。

 「来たんだ」

 「へへ……来ちゃいました」

 正直期待はしていなかった。だから来てくれたこと自体が素直にうれしくもあったし、同時にこんなところに呼んでしまった申し訳なさも湧いてきた。

 それに、学校で穂花と二人きりになること自体が危険極まりない。せっかく築き上げたものを危険に晒すことになる。

 でも、穂花は自分が決めたことを破ってまでここに来た。これ以上警戒心を持つのは失礼だ。

 「突っ立ってないで、ほら、座ったら?」

 聞き取りやすいように、けれどそれ以上に、ほかの連中に気付かれないように細心の注意を払う。階段の踊り場には僕の声だけがはっきりと響いていた。

 「ありがとう。それじゃあ、失礼して」

 穂花は恐る恐る僕の隣に座る。

 お互いの領域を侵さないように配慮された距離感が、寂しくも心地良い。誰かが来たら、きっと僕らはさっと立ち上がって距離を取るろうとするだろうけど。

 呼んだまでは良かったけれど、ここから何を話せば良いのだろう。ゲームの話、いや、いつもと変わらない。普段何を描いているのかとかだろうか。でも、もし人に見せられないようなものを描いていたとしたら、かなり気まずくなるのでは。

 ゲームの中では冗談を言い合える仲なのに、こうやって面と向かって話すとなると、安易に言葉が出てこない。

 「楓って、いつもお昼ご飯パンばっかりだね」

 悩んでいると、穂花の方からいつものように少しずれた言葉を投げてくれた。

 「しょうがないだろ。弁当を作ってくれる人なんていないんだし」

 「あー、そっか。じゃあさ、私がつくったげようか」

 「なんでだよ」

 「嘘。冗談だって」

 つい自虐を混ぜて言ってしまったのに、穂花はそれをさらっと受け流してくれる。