「楓、何してんだ、置いてくぞ」
「わ、悪い。先に行っててくれ」
やっぱり無視なんてできない。
あいつは突然呼び止められるのが苦手なんだ。
肩を叩いたり腕を掴んだりすれば穂花は驚いてしまう。
もっとも、華奢な穂花の身体に触れるのは、何というか、別の意味で神経を使うから今は絶対にできっこないけれど。
僕はわざと穂花の視界に入るように前に出てから、さり気なく拾ったプリントを差し出す。
「穂花、落ちてたぞ」
またいつものように少しズレた返事をするのかと思った。今はそれどころじゃないと、すぐに話を終わらせる準備をしていた。なのに。
触れてもいないのに、穂花はいつも以上に身体をびくつかせてから恐々と顔を上げた。まるで肉食動物がいる檻に入れられた小動物のように、殺気と絶望を混ぜた表情で僕を睨みつける。
「な、なんだ、楓か」
穂花はすぐにその表情の瞳の奥底に隠すと、代わりに精一杯の作り笑いを僕に向けた。
目を疑った。
作り出された笑いはすぐに消え、クマのできた目元がじわじわと赤く染まり、瞳の潤いが増していく。
……何でだよ。
お前は変わろうとしなかったじゃないか。
自業自得、じゃないのか。
穂花自身もわかっていて、ずっと絡まないでくれって言ってたんじゃなかったのか。
あの時放っておけば良かったんだ。
落ちたプリントも、そのままにしておけば良かった。
もうこれ以上関わらないでくれ。
もう巻き込まないでくれ。
頭ではそう思っているはずなのに。
「……大丈夫か」
いつもこうだ。
何なんだよ、一体。
「だ、大丈夫だから……!」
追い込まれている奴に大丈夫かなんて。
何か別の言葉を。
「あのさ。昼飯一緒に食わない?」
熟考した末に選んだ言葉がこれなのは、冷静に考えてもだいぶ恥ずい。
「え……?」
ほらみろ、明らかに困惑しているじゃないか。
「西棟の三階に屋上へ繋がる階段があるだろ。いつもそこで一人で飯食ってるんだ。良かったら、穂花も来いよ」
「わ、悪い。先に行っててくれ」
やっぱり無視なんてできない。
あいつは突然呼び止められるのが苦手なんだ。
肩を叩いたり腕を掴んだりすれば穂花は驚いてしまう。
もっとも、華奢な穂花の身体に触れるのは、何というか、別の意味で神経を使うから今は絶対にできっこないけれど。
僕はわざと穂花の視界に入るように前に出てから、さり気なく拾ったプリントを差し出す。
「穂花、落ちてたぞ」
またいつものように少しズレた返事をするのかと思った。今はそれどころじゃないと、すぐに話を終わらせる準備をしていた。なのに。
触れてもいないのに、穂花はいつも以上に身体をびくつかせてから恐々と顔を上げた。まるで肉食動物がいる檻に入れられた小動物のように、殺気と絶望を混ぜた表情で僕を睨みつける。
「な、なんだ、楓か」
穂花はすぐにその表情の瞳の奥底に隠すと、代わりに精一杯の作り笑いを僕に向けた。
目を疑った。
作り出された笑いはすぐに消え、クマのできた目元がじわじわと赤く染まり、瞳の潤いが増していく。
……何でだよ。
お前は変わろうとしなかったじゃないか。
自業自得、じゃないのか。
穂花自身もわかっていて、ずっと絡まないでくれって言ってたんじゃなかったのか。
あの時放っておけば良かったんだ。
落ちたプリントも、そのままにしておけば良かった。
もうこれ以上関わらないでくれ。
もう巻き込まないでくれ。
頭ではそう思っているはずなのに。
「……大丈夫か」
いつもこうだ。
何なんだよ、一体。
「だ、大丈夫だから……!」
追い込まれている奴に大丈夫かなんて。
何か別の言葉を。
「あのさ。昼飯一緒に食わない?」
熟考した末に選んだ言葉がこれなのは、冷静に考えてもだいぶ恥ずい。
「え……?」
ほらみろ、明らかに困惑しているじゃないか。
「西棟の三階に屋上へ繋がる階段があるだろ。いつもそこで一人で飯食ってるんだ。良かったら、穂花も来いよ」