「すみません。来週から教育実習をさせていただく日野楓と申します。新川先生にお会いしたいのですが」

 こういう時は、なるべく相手を刺激しないように低姿勢を貫いておけば良い。最近は物騒な事件が多くなってきているからこの反応も仕方がない。

 「ああ、はいはい、日野君ね。新川先生は今会議中なの。待ってて」

 生徒にも教師にも淡白な対応は、あの頃から何も変わっていない。有野さんの方は僕のことなんて覚えていないだろうけど。
 
 この様子だとしばらく待ちぼうけを食らうのは確定だろう。僕は再び玄関から外に出て、レンガ積みの花壇に腰掛けた。

 おもむろに教員用の駐車場を挟んだ向こう側にある昇降口に目をやると、同い年くらいの私服姿の女の子が、僕と同じように花壇に腰掛けていた。

 明らかにこの学校の生徒でも教師でもないラフな格好をしている彼女は、膝の上に乗せているタブレット端末にペンを走らせている。
 
 しばらく記憶を辿りながら眺めていると、やがて彼女は僕の視線に気が付いたのか、ペンの動きをぴたりと止めた。

 僕は慌てて持ってきた鞄の中に手を突っ込み、無造作に手に取った書類に目を通すふりをした。