一つは、課金してまでレベルの高い武器を手に入れようとしないこと。

 上位ランカーになると。大体の人が有料の武器を使っている。けれど僕らはお小遣いをもらう学生の身分。課金の沼にハマるのだけは避けたかった。

 それに、世界一位の人は、課金せずに半年間トップの座に居座り続けたという伝説級の記録があった。

 その人は一日十八時間もゲームに費やしているプロのゲーマーだ。そのことを知った時は少し絶望したけれど、どうせ僕らも現実世界では暇を持て余しているからと、できる限りその人に近付けるようにと決意した。

 そしてもう一つは、ゲーム内では決して学校生活の話をしないこと。

 言うまでもなくお互い学校での立ち位置は最悪だった。

 居場所がない奴らが慣れ合うほど惨めなことはない。せっかく見つけたオンライン上のこの居場所を、傷を舐め合う場所にはしたくなかった。

 このことは取材の時に「少しでもゲームの世界に集中したいから」と、着飾った答えを言っておいた。

 けれど。所詮中学生の僕らがする決意なんて、まあ脆いものだ。

 中三になると、穂花は一度だけ課金しなければ手に入れられない武器を持っていた。ただ、すぐにいつも使っていたものに交換していたから、僕は問い詰めることまではしなかった。見て見ぬふりをして済むのなら、それに越したことはない。

 そしてその頃から、時々僕はゲーム内で卒業後の進路のことを口にするようになった。

 このままじゃいけないって、薄々気付き始めていた。

 穂花もルールを破った僕を咎めようとはしなかったし、むしろ話を聞いてくれさえした。今思えば、ただ聞き流していただけかもしれないけれど。

 【なあ、穂花。お前、本当に大丈夫なのか】

 僕は回復アイテムを渡すついでに訊いてみる。

 聞こえていなかったのだろうか。そう思い始めた頃に、ようやく返事が返ってきた。

 【あーもう、死んじゃったじゃん。楓がちゃんとアイテム投げてくれないから】

 【聞いてんのか】

 【聞いてるよ。もう、うるさいなあ】

 向こうから聞こえてくるキーボードを弾く音が、明らかにさっきよりも増している。

 【楓さ、学校ではあんまり私と絡まない方が良いよ、巻き添え食らうよ】

 不機嫌になった穂花は、吐き捨てるようにそう言った。

 【お前だってこの前楽しそうに話しかけてきたじゃん。っていうか、お前は今のままで良いのかよ】

 【もー、お母さんみたいなこと言わないでよ。私は私なりに今を楽しんでるから良いの。それに、今は学校のことなんてどうでも良い。絵を描いてるか、ここで楓と戦っている時間を大事にしたい】

 僕もそうしていたい。でも、いつまでもそうする訳にはいかないんだ。

 いつかは戦わなきゃいけないんだ。

 身内でもない僕が他人の人生に口を挟むのは間違っていると思う。でも、

 【穂花が良いなら良いけどさ。でも、何かあったら言えよ】

 現実世界で言えなかった言葉は、なぜか現実には存在しないこの世界でならすぐに口にできた。

 僕は罪滅ぼしのつもりで、いつもより早めに回復アイテムを渡した。

 【はいはい。さんきゅー】

 その後穂花は、まるでゲーム内で操るキャラクターに自分の感情を憑依させたかのように、さらに無謀な突っ込みをかました。

 おかげで何度もミッションが失敗に終わり、せっかく貯めてきたランキングポイントが大幅に減ってしまった。

 おまけに途中から回復薬が底をついたことを一方的に責めてきて、頭に来たから無言でパソコンの電源を落とした。最近こういう解散の仕方が増えてきた気がする。