「でも、どう考えても絵を描くのには支障が出るじゃん。修理代、全額とまではいかないけど」

 「気にしないで。液晶の画面交換は高いから、すぐに修理することはできないけど」

 「いや、気にしないでって言われても……」

 「お母さんに相談するから大丈夫。この前自転車に轢かれて壊しちゃった時も、お母さんに言って修理に出してもらったし」

 「自転車に轢かれたって、身体は大丈夫だったのかよ」

 「うん。何となく気配で来るのがわかってたから、ぶつかる直前にカバンを盾にしたんだ。そういうのは慣れてるから」

 「慣れてるって……」

 穂花は僕の想像よりもずっと過酷な環境に生きているのかもしれない。

 「そういえば、こうして二人で話すのって、久しぶりだね」

 たしかにそうだ。だって僕はなるべく大きなトラブルを避けたいがために、穂花を避けていたのだから。

 「そ、それより穂花。お前、最近大丈夫なのか」

 「何が?」

 「何がって……」

 お前、またいじめられてるだろ。

 なんて言えやしない。僕だって中学の頃はこいつと一緒だった訳だし。

 「何も無ければ、別に良いんだけど」

 「お昼休みのこと?そんなの無視無視。慣れっこだし」

 いやいやいや。嘘を吐くなよ。あの時散々痛い目に遭っただろうが。

 たしかに、持ち前の明るさと絵を描くという好きなことがあるおかげで、今の穂花はそれなりに楽しい学校生活が送れているようだ。

 でも、さっき僕が声をかけた時に大袈裟に驚いたのは、あの時の後遺症に違いない。

 突然向けられる攻撃のせいで、反射的に身体が反応するようになったのだ。