放課後の教室は、傾きかけた日の光が差し込んでいる。

 窓の向こうから微かに運動部の掛け声が聞こえてくるけれど、それ以外の音はほとんど聞こえてこない。騒がしい日中の景色が嘘のようだ。

 そんな呑気な考えは、すぐにここに来たことを後悔する気持ちへと変わった。

 教室に穂花がいた。

 穂花は僕のことなんて気にも留めず、持ち込みが禁止されているはずのタブレット端末に絵を描いている。

 タブレット端末を覗き込みながら何度も唸り、今度はわずかにペン先を動かしたと思えば、自分の描いたものが納得いっていないようで、「っだあー!」っと天井に向けて感情を乗せた声を発する。

 いつも放課後になっても帰る気配がなかったけど、まさかずっと教室に残っていたなんて。

 幸い誰にも気付かれてはいなさそうだが、あいつらがこのことを知ったら、きっと今朝のようにゴミを入れられるだけじゃ済まないだろう。

 って、どうして僕が穂花の身を心配するんだろう。

 どうにかして気付かれないように教科書を取れないかと考えたが、僕の席はあいつの二列隣だからそれは絶対に無理だ。
 覚悟を決めて、穂花の方へと向かう。

 「わっ!」

 穂花は大袈裟に肩をびくつかせ、拍子に持っていたタブレット端末を落とした。

 穂花は発作を治めるように大きく深呼吸をしてから、今できる精一杯の笑顔を僕に向けた。

 「びっくりした……」

 「ごめん……僕のせいだ」

 床に落ちたタブレット端末の画面には、まるで斜めに一刀両断されたかのように一本のひびが入っていた。落ちた時にした鈍い音の正体は、ガラスに亀裂が入る音だった。

 「ううん、自分で落としちゃったから。それに、ちゃんと使えるから大丈夫だよ」

 僕はいつもよりはっきりと大きく、ゆっくりと口を動かす。