ノエルは、通常の大狼よりも一回り以上大きな大型種の狼だった。氷狼の事件の際に、彼本人から『妖獣』という存在なのだと教えられたが、ラビは特に気にしていなかった。ノエルは大切な家族で、親友で、人の言葉を話してなんでも食べる、知識豊富で賢いとても頼りにもなる最高の相棒だ。

 ラビがその背に跨って乗れるくらい、害獣でも稀にないほどノエルは大きい。

 妖獣は、不思議な力を持っているのだという。一度だけ、尾の数が増えて町の建物よりも巨大化し、黒い炎まで放った事があったが、その後にはちゃんと普段のサイズで落ち着き、今も相変わらず漆黒の豊かな毛並みを揺らせている。

 セドリックとユリシスの視線を受け止めたラビは、自分が馬車に乗り込む直前のノエルの様子を思い返して、こう答えた。


「馬車の上」


 先日に、初の馬車旅をした時と同じである。

 セドリックとユリシスは、一度だけ見た事があるその光景を思い出して、複雑そうな心情を表情に滲ませた。

 当初と同じように、今は姿も見えなくなってしまっている口の悪い立派な黒大狼が、馬車の屋根に収まりきらない身体の四肢と尻尾をはみ出させて、呑気にうつぶせている様子が何故だか容易に想像出来た。