表情なくそこに目を留めていたヴァンが、「やっぱ見えねぇな」と腕を組んだ。

「あんなデカい犬っころだったら分かりそうなもんだが、気配すらもないってのも不思議だぜ」
『テメェが気配を認識出来てないだけだ。あと、俺は犬じゃねぇ、狼だ』

 ノエルは答えたが、その声はラビにしか届かないものだった。

 犬の中で害獣に分類されている少数種については、確かに大型も存在している。人によっては、犬と狼の見分け方が難しいとする場合も少なからずあり、特殊ながら、二つの種族の間に位置している狼犬に属する動物も存在していた。

 とはいえ、害獣に指定されている肉食種の大型の山犬を含め、これほど身体が大きく、しかも立派な狼という顔立ちや姿をしている犬もいない。そういう理由もあって、ノエルとしては誤解されるのは大変遺憾である。

「ところで、お前メシはまだだろ。料金は宿代を含めて払ってあるから、カウンターで注文したら席に座って待っていれば運ばれてくる。今ならほとんど人がいないし、奥の席の方なら『相棒』にもあげられると思うぜ。部屋の鍵は、入ってすぐのところにある受け付けで名前を言えばもらえる」

 で、遅れて合流したお前に状況を説明するとだな、とヴァンは手振りを交えながら続けた。