彼の表情からは、何の感情も伝わってこなかった。
まるで商品か何かを検分しているような態度だ。
そして私はあることに気づき、衝撃を受けた。

――この人の感情の色が見えない。

目の前の神々しい男性は、白い光を纏っていた。

だけど、それは彼の感情ではないようだ。

ずっと、白いまま。
ただただ眩しくて神々しい。

こんなことは初めてだ。
感情の色で人を見るのが癖(くせ)になっていた私は、戸惑った。

私の様子を見て、男は静かに言った。

「お前が異世界から現れた神子か」

はい、ともいいえ、とも答えられない。

絶対違うと答えたいが、そう言ったら何をされるか分からない。
黙っていると、彼は独り言のように呟いた。

「まさか召喚の儀(ぎ)が成功するとはな」

私は躊躇(ためら)いながらも問いかける。

「召喚の儀?」

「異世界から神子を呼ぶための儀式だ。今までに何度も行っていたが、成功したのはこれが初めてだ」

よく分からないけれど、私はその儀式とやらでここに呼ばれたということだろうか。

「ここは白陽国。白龍の守護を司る国だ。俺はこの国の皇帝、白浩然(はくはおらん)だ」

「白陽国……。聞いたことない」

「だろうな。どうやらお前は、我々とは別の世界から来たようだ」

「別の世界?」

改めて言われると、そんなバカな、と思ってしまう。
だけど海の中に浮く城も、白い龍も、とても私のいた世界にあるものとは思えない。

「ここって、死後の世界なの?」

そう問うと、浩然は考えるように眉をひそめた。機嫌を損ねてしまったのかと思ったが、別にそういうわけでもないらしい。

「そうではない。俺もお前も、きちんと生きている」

どうやら死んで天国に到着したわけではないらしい。