光り輝く、真っ白な龍。
月の下に浮かぶ、幻想的な城。
確かにあの白い龍が、私を助けてくれたと思ったのに。
あの龍が、この城を守っているという白龍ではないのだろうか。
しばらく歩き続けていた私たちは、やがて別の建物に移動する。
どうやら敷地の中に、いくつもの殿(でん)があるようだ。
長い石段を登ると、溜め息を吐きながら目の前にそびえる建物を見上げた。詳しいことは謎だが、ものすごく豪華だということは分かる。
そして一際立派な建物の前に、麗孝よりもずっと屈強な体格の男性が、ずらりと並んでいる。
見張りだろうか。武装していて、槍や剣を持っている。
ますます逃げ出すのが難しくなった。背中を冷や汗が流れる。
彼らは深く頭を下げ、大きな扉を開いた。
建物のどこかで香(こう)を炊いているらしく、風にのってふわりと上品な香りが流れてきた。
「ここよ」
麗孝に促され、中に入って一番に目に飛び込んできたのは白い龍の装画(そうが)だった。
壁や柱のいたるところに宝玉が埋め込まれ、飛雲(ひうん)と白い龍が描かれている。
広間にはやはり物々しい格好の男たちが等間隔で並び、敬服の姿勢をとっている。
私はごくりと唾を飲んだ。
この世界のことがまったく分からない私でも、ここで何か無礼なことをしようものなら無事ではすまないだろうと感じ取ったからだ。
広間の王壇(おうだん)には、玉座(ぎょくざ)があった。
そこに、ひとりの男性が座っている。
誰が言わずとも、その威厳に満ちた空気で彼が皇帝なのだと分かる。
麗孝は先に歩いていってしまって、玉座の隣に控えた。
ひとりで広間の真ん中に置き去りにされた私は、途端に心細い気持ちになる。
私は立ち尽くしたまま、皇帝のことを見ていた。
金の刺繍が施された白い上衣を纏った美しい男が玉座に腰掛け、無表情でこちらを見下ろしている。
まるで神話に出てくる神様のようだった。
白い肌は陶器のように滑らかだ。
銀色の長い髪。
冷たく光る、聡明そうな赤い瞳。
皇帝と言うからてっきり年を取っているのかと思ったが、顔つきは若く、二十代前半くらいに見える。けれど彼の雰囲気には、重々しさがあった。
正面にいるだけで、押し潰されてしまいそうな威圧感だ。
ずっと見ていたら失礼だろうか。
そう考えて、瞬きした瞬間。
――足音一つしなかった。
いつの間にか、皇帝が私の目の前に立っていた。
驚いて目を丸くする。
皇帝と私の間は、十数メートルは離れていたはず。どうやって移動したのだろう。
戸惑っている間に彼は私の顎に白い人差し指をかけ、ぐいと上を向かせる。
「っ……」
思わずうわずった声が出そうになる。
間近で彼の顔を見て、息が止まりそうになった。
あまりに綺麗すぎて、恐怖すら覚えそうになる。
すべてが完璧で、生身の生き物だという気がしない。
この人が、皇帝……。