何を言っているのか、さっぱり分からない。聞いたこともない国名だ。困惑している間に、麗孝が私を立ち上がらせる。

「さ、あなた、こっちに着いて来て」

「えっ? あの、どこに行くの?」

「いいから、大人しくアタシに着いて来てちょうだい。悪いようにはしないから」

笑っているのに、悪寒がするような笑みだった。
力では敵いそうにないので仕方なく、麗孝の後ろについて歩く。

「ねぇ、ここはどこなの。一体私をどうするつもりなの」

何も説明してくれない。完全に無視だ。
何なのここは。知らない間に外国にいて、捕まっているなんて。
死のうとして海に入ったけれど、何をされるか分からないのは怖い。
言うことを聞きたくなかったけれど、逃げるのも難しそうだ。

朱塗りの円柱が並ぶ長い廊下を、まっすぐに進んで行く。
一体どこまで続くのかも分からないほど長い。回廊のようだ。
やがて麗孝が口を開いた。

「これから、あなたを陛下に紹介するわ」

「陛下?」

「皇帝陛下よ」

「こ、皇帝!?」

「そう。あなたが本当に神子なら、まずは陛下に報告しないといけないの」

どうやら麗孝は、この城の主(あるじ)に挨拶しろと言っているらしい。
皇帝というのが本当なら、この国で一番偉い人ということだろう。
ということは、やっぱりここは日本じゃないんだ。日本には皇帝はいないもの。

建物の造りも麗孝の服も日本らしくないけれど、本当に白陽国という国にいるのだろうか。
そんなに長い間意識を失っていたのか。

それとも海で溺れて、別の国まで流れ着いた? まさか。

歩いていると、建物の壁や装飾など、いたるところに白い龍が描かれているのが見えた。
私はぽつりと呟く。

「……白い龍がたくさん」

「えぇ、そうよ。ここは白龍様に守護されている国だもの」

「あ、白龍って」

思わず叫んだ。

「あの、私、海で白い龍に会った! 背中に乗せてもらったの」

すると、彼はこちらに振り返り、眉をひそめる。
彼の色が複雑に混じる。
そこには、疑惑だけでなく、なぜか期待がほんの少し混ざっている。

「白い龍? まさか。陛下の力は、まだ目覚めていないはずよ。あなたの見間違いじゃない?」

「え……」

そうなのだろうか。
確かに、龍が実在したのかと言われると、夢だったと考えるほうが自然かもしれないけれど。
私は海の中で見た光景を思い出すために目を細める。