「……ちょっとぉ、しっかりしなさい。生きてるー?」

私は誰かに声をかけられていることに気付き、ハッとして目を開いた。
叔父と叔母の声ではない。もちろん、両親や妹の声でもない。

聞いたことのない人の声だ。
女性と男性の中間のような、掠(かす)れた不思議な響きだった。

私が顔を上げると、整った顔立ちの男性が、こちらを覗き込んでいた。
彼の顔には華やかな化粧が施(ほどこ)されている。

目が大きく、鼻も高く、口も大きい。派手な顔だな、と思う。
背中まで伸びる漆黒の長い髪は、後ろで一つに結われている。
肩幅が広く体格はがっしりしているので、一目で男性だと分かった。

私が呆然としていると、彼はにこりと微笑んだ。

「あら、意識があってよかったわぁ、神子(みこ)様」

喋り方も、やはりやわらかい。
それに、“みこ”という言葉に面食らう。
巫女って、神社にいる巫女だろうか。どちらにせよ、私は巫女ではない。

「巫女? いや、違うけど……」

私は咄嗟に彼の“色”を見た。
彼の心は、オレンジ色の光を灯していた。オレンジは、優しさを現す色。
おそらく親切にしてくれようとしているのだろう。

私を不思議に思っている色も混じっているけれど、警戒よりは興味が強いようだ。
とにかく攻撃するつもりがないらしいと分かり、ほんの少し安心する。

「アタシは麗孝(りきょう)よぉ。あなたの案内役を任せられているわ。よろしくね」
「麗孝、さん」

話し方と外見からして、オネエってやつだろうか。
東洋系の顔立ちだが、名前を聞いた時点で、おそらく日本人ではないのだろうなと思った。

何よりその服装も見たことのないものだった。彼の身につけている灰色の服は袴(はかま)に近いが、日本人が式典などで着用する物とも少し形が違う。
 
私は意識を失う寸前、龍の背に乗り、海を渡ったことを思い出した。
ハッとして自分の格好を確認する。制服は濡れていなかった。
海で溺れたはずなのに、どうして?
麗孝が着替えさせたというわけでもなさそうだ。

それから私は建物の中を観察する。

知らない場所だ。
どこかの部屋の床に寝かされていたようだ。薄暗く、とにかく天井が高いということしか分からない。

「ここ、どこなの?」

「ここは白陽国(はくようこく)よ」

「……え?」