やがて私は浩然に抱きかかえられ、城の中へと下ろされる。
げほげほと咳き込み、水を吐き出した。
浩然はそんな私の姿を見下ろし、呆れたように顔をしかめた。
「まさか、本当に神子の命を奪おうとするとはな」
私を殺そうとした男たちはすぐに別の兵士によって捕らえられ、どこかに連れていかれてしまった。
「しかしお前も、見た目よりも莫迦(ばか)なのか?
俺が手を伸ばせと言っただろう。
この城の周囲には、結界が張られている。普通の人間ではとても泳ぎ切れない。俺が助けなければ、死ぬところだったぞ」
淡々とそう話すのに腹がたって、つい言い返してしまう。
「……どうせここにいたって殺されるじゃない」
「どういう意味だ」
「彼らは私を生け贄にすると言ってた。私は最初から死ぬつもりだったから、それでもかまわないと思って抵抗しなかっただけ!」
それを聞いた浩然は怪訝な表情になる。
「お前は自ら死を選んで、海へ入ったのか?」
「そう」
浩然に言っても無駄だと分かっているのに、次から次へと言葉が溢れ出す。
「私、ずっといいことなんてなかった。
家族が事故で死んで、引き取られた家ではひどい仕打ちを受けて。
死のうと思って海に飛び込んだら、ここでも生け贄なんて訳の分からないことを言われて殺されそうになって!
どうせ私がここにいると他の国にバレたら面倒だから、殺すんでしょう? だったら早く殺してよ!」
そうまくしたてた私に対し、浩然は落ち着いた声音で言った。
「城の者が勝手な噂をしていたのを信じたのか。俺は、お前を生け贄にするつもりはない」
彼の心は白く輝いたままだ。浩然の心が読めないのは不安だ。
「確かに伝説となった神龍の怒りを静めるため、昔生け贄を捧げる風習があったのは事実だ。
贄を捧げれば国が繁栄すると、信仰心を抱いている者たちもこの城にいる」
「やっぱり……!」
「だが、それはあくまで古い因習(いんしゅう)だ。俺は人間の贄などいらないと思っている。黒龍の一族は、まだ実際の人間を使っているようだが」
「そう、なの……?」
浩然は頷いて言った。
「あの兵士たちの様子は、少しおかしかったな」
確かにその通りだ。彼らは目が虚ろで、空っぽの人形のようだった。
「そんなに疑わしいのなら、お前の命が確実に助かる方法が、一つだけある」
「どうすればいいの?」
「俺の妃になればいい」