それに、彼らの瞳も虚ろだった。
まるで、何かに操られているような……。
男たちは感情のこもっていない声で言った。
「神子を生け贄にする」
「生け贄!?」
このままここにいたら、殺される。
逃げようとするが、男のひとりは私の口を布で塞(ふさ)いだ。
「んんっ!」
そして男たちが持っていた箱に閉じ込められる。
男たちは、私をどこかに運ぼうとしているようだ。
「一体どういうつもり!?」
箱は乱暴に揺れ続け、彼らが移動していることが分かる。
次に箱が開けられた時、私は城を囲む壁の上に載せられていた。
壁はマンションの三階くらいの高さがあるのではないか。しかも城壁の外には、海が広がっていた。ここから落とされたら、おそらく命はないだろう。
「おい、あいつら何をしているんだ!?」
「神子がさらわれた!」
異変に気付き、他の兵士たちが集まってくる。
そして、少し離れた場所にいる浩然と目が合った。
浩然の後ろにいる麗孝も、城壁の上にいる私を見てギョッとした顔をしている。
私が悪いことをしたわけではないのに、なぜか後ろめたい気持ちになる。
側にいる兵士たちは私の身体を抱え、今にも私の身を海へと投げ出そうとしている。
私は一瞬、浩然に助けを求めようと考えた。
だが、元々は死ぬために海に身を投げたのだ。
ここで死んでも、同じではないか。
――それに、あの人は怖い。
心の色が見えない人なんて、初めてだ。
何を考えているのか分からないのが一番怖い。
信じても、また裏切られるだけかもしれない。
気がつくと、壁のすぐ下に浩然がいた。
「こちらに手を伸ばせ!」
浩然がそう叫んだのが聞こえた。
だがその声が聞こえたのと同時に、私の身体は兵士たちによって城壁の外へ投げ出される。
私は浩然に伸ばそうとした手を下ろし、ぎゅっと拳を握りしめた。
頭から、水の膜の中に滑り落ちていく。
城から見ていた時は水の膜に見えたけれど、中に飛び込むとその水流の激しさに、一瞬で飲み込まれてしまう。
まるで台風のように勢いよく水が暴れ、渦巻き、私は抵抗する間もなく溺れてしまった。
さっき溺れたばかりなのに、また同じような目に合うなんて、バカみたい。
今度はきちんと死ねるだろうか。
そう考えながら薄く目を開くと、浩然がこちらに飛び込もうとするのが見えた。
まさか皇帝本人が助けに来るとは思わず、目を丸くする。
「どうして……」
それに彼の周囲だけ、水の流れが止まっている。
浩然は波の中を歩くように進んで、私の身体を抱き留めた。