会議は終了し、部屋には一部の守護者だけが残っている。

既に外は暗く会議室のブラインドは下ろされて、鹿島というスーツ姿の女性がピンク色の紅茶が入った真っ白のティーカップを各自の前に配っていた。

「これはローズヒップですか?」

カップを手に取り香りを嗅いだ隆智の質問に、美魔女と呼ばれる鹿島がふっくらとした唇でふふっと笑う。

「ビタミンCが多く入っていてお肌にとっても良いの。ノンカフェインだから眠る前にもお勧めよ」

「参考にします」

姫の為に今度煎れようと考えながら真面目な表情で答えた青年に、鹿島は可愛いと茶化す。

「さて、例の件だが」

隆士郎の声に皆一斉に彼を見る。
例の件、それはここに残る守護者達だけ特別に調査を任されている件だ。

「まずは隆智からの意見を聞こう」

隆智は口元に少し手をあて思案顔になる。

「結論だけ言えば、わからない。ですね」

それだけ言った隆智に、隆士郎が軽く笑う。

それに気付きながら隆智は、

「一見ぼんやりしていそうで、観察眼の鋭い男です。
西園寺彩也乃が闇夜姫ではないか、というブラフを与えても、真偽を積極的に確かめようという感じは無いように見受けます」

隆士郎はそれを聞き、次に先ほどまで会議の進行をしていた長い黒髪の娘に意見を求めた。

「私の感触では彼は私が闇夜姫では無いと思っているようです。
彼が私を助けたときには、もしやこれをきっかけに近づいて聞き出そうとするのではと思いました。
ですがそんな素振りも無いので、奥手なのかと私から食事に誘ってみれば笑顔で断られたんですから」

「その話を聞いたときは驚いたわよ」

肩をすくめて話した西園寺彩也乃に、隣に座る鹿島が呆れた声を出す。

彩也乃の一番の仕事は『闇夜姫』の影武者だった。
宵闇師の集まりなどでは世依では無く彩也乃が闇夜姫として出る。
宵闇師の能力を測るには本当の姫を見分けられるかが条件。
なので初めて呼ばれたときには、闇夜姫として立つ彩也乃の近くで侍女の一人として世依は並び、後でその時の話しを聞き能力を見極めていた。

「彩也乃ちゃんのお誘いなんて、大抵の男なら喜んで応じるでしょうに」

「彼は女性そのものに興味が無いのでは、と勘ぐりたくもなります」

段々拗ねるように話す彩也乃に、まぁまぁと鹿島がなだめた。

そんな女性陣のやりとりを見ながら、

「では彼が既に『闇夜姫』本人を見つけ、様子を見ている可能性は」

隆士郎の質問に隆智が難しい表情になる。

「それは無い、と思いたいのですが何せあの男なので。
隠して様子を見ている可能性も否定できないかと」

「私も彼は何を考えているのか掴めませんが、一つ気付いたことがあります」

一緒に数ヶ月住んでいると言うに隆智には断言も出来なければ、特にここで言うほど気づいたことも無かった。
だから彩也乃のその言葉に、何を自分は見逃していたのだろうかと緊張が走る。

「何度か授業後の教室を見たことがあるのですが、姫に対してだけ彼はとても穏やかな顔をするのです」

身構えていた隆智はきょとんとし、それは、と言葉を続けようとしたところを鹿島が、

「なるほど。彼は姫の本質を見抜いているのでしょう。
やはり侮れませんね」

「いや、ですからそれは違うのでは」

隆智が繕うように言うと、鹿島はテーブルに肘を突いて向かい側斜めに座る隆智に微笑む。

「隆智くんは近すぎるから見えなくなるって事も知っておいた方が良いわ。
彩也乃ちゃんがそんなことを言うんだもの、他の女学生とは随分扱いが違うのでしょうから」

「私が集めている情報の範囲ですが、彼は講義の質問には丁寧に応じますし、相手が女性だから甘くしようというタイプでは無いでしょう。
私を助けた一件で彼に対し好印象を抱いた学生も増え、アプローチもいくつかあったとか。

ですが誰にでも、僕は教員だからと一線を引いて断っているとのことです。
そこが良い、と静かにファンが増えているところが厄介ですね」

「彼、顔を隠しているけど実際はかなりの男前なんでしょ?
・・・・・・見たいわね」

「私も見たことが無いので一度水でもぶっかけて見てみようかと」

「鹿島さん、西園寺さん」

隆智がいつもの女子トークが始まりだしたのでため息をつきつつ注意すれば、二人は不満そうな顔をした。