入学式後の一組は、俺の話題で賑わっていた。しかし、先生が教室に入ってくると、急にシーンとし、各々の席について先生を見つめる。そして先生が口を開いた。

「いやぁ、山井くんの挨拶、素晴らしかったですね。皆さんも目標を持って高校生活を送れると良いですね。それでは早速、委員会を決めたいと思います」

 そう言って先生は話題を変えてくれた。

 俺は、イジられなくて助かったと思った。しかし、安心したのも束の間だった。

「じゃあ先ず、学級委員長か副委員長やりたい人は居ますか? って聞いて手を挙げる人って少ないんだよね」

 辺りを見渡すと、ほとんどの生徒が先生と目を合わせないようにしている。
 たまたま尚人と目が合い、何か合図をしていることに気がついた。それが何を意味しているのか、さっぱり分からず、俺が首を傾げると、尚人が静かに手を挙げた。

 マジで⁉︎ あいつ、意外と委員長とかやるタイプなんだ。そうか、さっきの合図は一緒にやらないか? っていう誘いだったんだ!

 自己解釈していると、尚人は驚くことを口にした。

「先生、学級委員長は山本君が適任だと思います。あんな情熱的な挨拶ができる彼なら、きっとクラスをまとめていけると思います」

 ふざけんな、バカ! 何、勝手に推薦してんだよ。

 俺は目を大きく見開き、焦りながら首を横に振る。
 しかし、周りの人間は尚人の言葉に賛同し、誰も俺の意思を尊重してくれない。そして、先生までもが尚人の言いなりとなったかのように話す。

「確かにそれが良いですね! 山井くんにお任せしても良いですか?」
「いや、それはちょっと……。俺、そんな器じゃないし」

 苦笑いしながら話す俺に、尚人が余裕そうな顔で言った。

「大事なものを包み込めるような、器のデカい人間になるための訓練だと思って!」
「はぁ⁉︎ お前な……」
「それに、大ちゃんが委員長だったら副委員長になっても良いって女子……。多いと思うけどなぁ」
 
 何故かニヤニヤしっぱなしの尚人に、やや苛立ち始めた。すると一人の女子がピシッと手を挙げて言った。

「はい、先生! 私、副委員長やります」

 それはあの遠野だった。すると後から女子数人が手を挙げた。先生は慌てたように言う。

「分かった、分かった! じゃあ……、公平に決めるために、ジャンケンしようか」

 誰も「委員長やる」って言ってないぞ! 引き受けなきゃいけないパターンに持ち込まれた。恐るべし……、尚人の話術。

 その後、俺は学級委員長として一年間クラスをまとめるはめになった。
 副委員長はというと……、それは次の機会のお楽しみということで。