テスト二日目。
 俺は、今日も公園で彼女を待っている。最近、彼女は気まずそうな顔を見せることが増えた。
 何故だろう? 
 その顔を見る度に、俺が毎朝待っていることが迷惑行為に値するのでは? と思ってしまう。
 そして今日もまた……。

「おはよう」
「おっ、おはようございます」

 彼女は俺と目を合わせないように挨拶をする。結構切ない。俺は気付かぬうちに、彼女に嫌なことをしてしまったのだろうか?

「……今日でテストも終わるね。そしたら次は体育祭だ。お互い忙しくなりそうだね」
「そうですね……」

 うつむいたまま、時折苦笑する彼女。会話が全く続かない。

「テスト、緊張してる?」
「えっ……、はい」

 いつもと違う。何か悩んでるような感じが……。

 彼女の反応に違和感を覚え、話を聞こうとした時、遠くに金髪頭の男子が歩いているのが見えた。

 あれは、確実にあいつだ。

 理沙の方を見ると、相澤に気がついたようで、ずっと見つめている。頬がほんのり赤くなってる気がした。

「ごめん、山井くん。私、先に行くね」

 彼女はあいつの方を見たまま、そう言って走って行った。俺はそれを呆然と見つめるしかできなかった。

 下駄箱に行くと、理沙の髪を愛おしそうに撫でるあいつの姿が見えた。とても見ていられない程、切ない光景だった。

 何も見なかったことにして、早足で教室へと向かった。
 しかし、教室に行けば尚人に詰め寄られるし、理沙のことが気になってテストには集中できないし。踏んだり蹴ったりの日だ。

「大丈夫?」

 心配そうに声をかけてきたのは遠野だ。

「あぁ……」

 気の抜けた返事をすると、辛そうな顔をして遠野が言う。

「落ち込んでるのは理沙ちゃんのせいでしょ? そんなに落ち込むぐらいなら、やめちゃえば良いのに。報われない恋なんて、辛いだけじゃん」

 俺のことを考えてくれてるんだろうけど……。今の俺にはキツすぎる言葉だ。

「ねぇ、女子が頬を赤らめて一人の男子を見つめてたら、それって好きってことかな?」

 俺は机に頬杖をつきながら遠野の方を見て呟いた。

「それって、理沙ちゃんと相澤くんのことでしょ? ……好きってことだと思うよ。残念だけど、あの二人お似合いだもん」
「……」
「山井くんは、理沙ちゃんの彼氏でもなんでもないんだから、彼女が誰を好きになろうと関係ないでしょ」
「……」
「ごめん、正直に言い過ぎた」

 遠野はそう言って自分の席に戻って行った。俺は何も言えなかった。そして机に顔を伏せ、理沙や遠野に言われたことを思い返していた。

 理沙は本当に、あいつのことが好きなのかな? 
 どうせ俺は彼氏でも何でもない部外者だよ。そんなの分かってんだよ……。
 俺は昔から何も変わってない。結局、自分の気持ちも伝えられない卑怯者のまま。

 活力を失ったように正門へと向かう。空は青く晴れ渡り、雲ひとつない穏やかな昼下がりだ。心地よい風が吹き、この最高な天候が、今はただ憎らしく思える。

 俺の数メートル先を、理沙と相澤が仲良さそうに歩いている。まるで磁石のようにピタッとくっついて、俺の入る隙などない。
 喪失感に襲われ、彼らに気付かぬフリをして逃げるように家へと向かうのだった。