今日から二日間、中間テストだ。これまで勉強頑張ったから、勉強した問題に似たようなのが出る良いなぁ。

 一時限目、英語。最も苦手と言っても過言じゃない。全教科、苦手なんだけどさ……。
 英語って普段使わないから余計身につかないんだよね。あー、ほら。拒否反応で、だんだん字がグニャグニャに見えてきた……。

 英語のテストが終了し、私はクルッと後ろを向いて凛ちゃんに泣きついた。

「凛ちゃん、英文すごく難しかったよ」
「何書いてあるか分かんなかったよね……」

 二人で見つめ合い、苦笑いをした。

「次! 次の古典を頑張ろう!」
「日本人なんだから、英語より古典できれば良いよね」

 気を取り直して、私達は古典の教科書を見返し始めた。

 相澤くんが近づいてきて、余裕そうな表情で声をかけてきた。

「最後まで諦めずに教科書を見返すなんて、偉いね」
「さっきのテスト、あんまりできなかったから……。古典は頑張らないと……」

 私は、教科書を開きながら相澤くんの顔を見上げて話した。

「なるほどね」
「余裕そうだけど、大丈夫なの?」

 凛ちゃんも相澤くんを見上げ、不思議そうな表情で問いかける。

「俺、古典は得意なんだ! 数学と地理は捨てるから大丈夫!」

 相澤くんは笑いながらそう言った。彼にはいつも驚かされる。私達だけでなく、佐藤くんも「信じられない」というような顔で彼を見上げた。

「皆、そんなに見なくたってよくない? 人生諦めが肝心だ。今を楽しく生きようぜ」
「まだ諦めるのは早い」

 相澤くんの意見に、佐藤くんが珍しく物申した。

「そうだよ! 今、頑張れば、もしかしたらもっと楽しい未来が待ってるかもよ」
「まぁ少なくとも、赤点で困ることはないんじゃない」

 私と凛ちゃんも説得する。しかし相澤くんは不満そうに言うのだった。

「えー、俺、ご褒美ないと頑張れない。……あっ、そうだ! 明日昼に学校終わるし、ご飯でも食べに行こうよ! それなら頑張れる」

 私と凛ちゃんは顔を見合わせた。そして私は、相澤くんを見上げる。

「ごめん、明日は凛ちゃんと一緒に買い物に行くんだ。山井くん達に、何かお礼したいから、お菓子でも買いに行こうかなぁと思ってるの」

 それを聞いた彼は、目をキラキラ輝かせ、満面の笑みを見せる。

 これは「俺も行きたい」っていう顔だ。どうしよう? 凛ちゃん。

 私は凛ちゃんの方を向き、目で訴えた。彼女は「仕方ない」という顔を見せた。もう一度相澤くんを見上げて言った。

「相澤くんも一緒に行く?」
「行く!」

 即答だった。佐藤くんは用事があるようで、三人で買い物に行くことになった。

 一日目のテストが無事に終わり、帰り道の途中、山井くんのことを考えた。

 私達に勉強を教えるのが大変で、自分の勉強をあまりできなかったかな……? 一組に居られるぐらい頭いいから、赤点とかは絶対取らないだろうけど、順位が下がったりしたら私のせいだ……。
 お礼、どういうのにしよう? 甘いもの食べるかな? 好きな食べ物は何だろう?

 思いを巡らしていると、数十メートル先に山井くんらしき人が見えた。

 山井くんかな? でも、ずっとスマホ見てる。スマホを操作してるところなんて見たことないから、変な感じ。
 ……なんか忙しそうだから、声かけない方が良いかな? でもお礼ぐらいは言いたいな。

 私は声をかけるため、思い切って彼の元まで走ることにした。

「山井くーん。はぁ……やっと、追いついた」

 少しの距離しか走ってないのに、息切らしちゃって恥ずかしい……。

 そんな私を見た彼が、驚いたように問いかける。

「どうしたの?」
「山井くんのお陰で、今日のテスト、結構できたと思います! お礼を言いたいなぁと思ってたら、姿が見えたので、追いかけてきちゃいました」
「そうだったんだ。テストできたみたいで良かった! お礼なんて良いのに……」

 彼は笑いながら話していたが、急にジッと私を見つめ、真剣な表情で話し始めた。

「あっ、あのさ……、明日のテストが終わったら、一緒にランチとかどうかな? もちろん、俺と二人じゃなくて、内山さんも一緒でさ。それが勉強会のお礼ってことで、どうか
な?」

 彼からそんな誘いを受けると思っていなかった私は驚いた。そして二人ではなく誰かと一緒じゃないと、私と食事に行きたくないんだ、と思って切なくなった。

「ごめんなさい。明日はちょっと用事があって……。今度、皆で行きましょ!」
「急な誘いで、ごめん。また今度ね」

 私、なんで傷ついてるんだろ? 
 山井くんは、お礼とか、気を遣わせないために食事に誘ってくれただけで深い意味はないのに。
 だから二人っきりで食事なんて、あり得ない。あり得ないことを望んで、勝手に悲しくなってバカみたい。

 彼と別れた後、私は急いで家に帰り、ベッドに倒れ込んだ。そして静かに涙を流したのだった。