ついに中間テストの日を迎えた。テストは二日間で行われる。今日は英語、古典、数I、地理の四教科、明日は現代文、数A、生物の三教科。
皆、大丈夫かな? いや、俺も人の心配してる場合じゃないけど……。
迷惑なことに、尚人が休み時間の度に泣き言を言いに来る。
「大ちゃん、俺、もうダメだ……」
「そんなに難しい英文じゃなかっただろ」
「英語の話じゃない! 俺の女神の話だよ」
「そっちか……」
「全然、相手にしてくれない。デート誘っても迷いなく断られるし、好きなタイプを聞いても教えてくれない。優しくしても好きになってもらえないし。俺どうしたら良い?」
「うーん、勉強したら?」
俺は理沙のことが心配で、尚人の話を聞き流し、適当に相槌を打った。
「冷たい。どうせ、お前の頭は理沙ちゃんでいっぱいなんだらろ? 俺だって、凛ちゃんでいっぱいなんだよ。はぁ、いっそ出会う前に戻りたい。……そうだよ! 元はと言えば、大ちゃんが助っ人として俺を起用するからこんなことに……。それなのに、まともに話も聞いてくれないなんて、ひどい」
尚人は、わざとらしい泣き真似をして、チラチラとこちら見る。罪悪感に苛まれ、集中して尚人の話を聞くことにした。
「分かった、聞くから。で? アピールしても彼女が冷たいから、諦めた方が良いかって話だっけ?」
「違うぞ、バカ者。その程度で諦めるなんて、本気の恋じゃない!」
「いやいや、さっき『いっそ出会う前に戻りたい』って言ってましたけど……」
「そんなの、本心じゃないに決まってる!」
俺は苦笑いしながら、つい本音をこぼした。
「めんどくせー。じゃあ何が言いたいの?」
「明日、三限で終わるじゃん。てことは、帰るの昼じゃん! 腹減るじゃん。四人で飯行きたいな」
「はぁ? 四人って誰と誰⁉︎」
驚いたように聞き返す俺を、尚人は指差す。
「俺とお前と、彼女と理沙ちゃんに決まってるでしょ。理沙ちゃんが来れば、凛ちゃんは確実に来る! だから絶ッッッ対、理沙ちゃんを連れてきて。騙してでも連れてきてよ」
「お前、強引だな」
「何とでも言ってくれ。彼女が来てくれるなら、俺は周りからどう思われたって構わない」
俺は尚人の勢いに圧倒された。そして男気さえも感じた。
「……やってることは微妙だが、言ってることは、かっこいい」
「つべこべ言わずに、早く理沙ちゃんに連絡しろよ」
「今連絡したら、テストに集中できないだろ。それに、邪魔者が乱入してくるかも。今日のテストが終わったら連絡するよ」
「邪魔者……? あぁ、翔くん? まぁ、よろしく! これでようやくテストに集中できるわぁ」
そう言いながら、尚人は嬉しそうに立ち去って行った。
これでようやくテストに集中できる……。と言っても、あと地理しか残ってねぇけど。
それより理沙に何て送ったら良いかな? 彼女に送る文章を考えていたら、全くテストに集中できなかった。
理沙のこととなると、俺は何も手につかなくなる。「お前は俺の生きがいだ」そう伝えられたら、俺たちの関係は何か変わるのかな……?
スマホの画面を凝視しながら家に向かって歩き始めた。俺はまだ、彼女に連絡することができずにいたのだ。
連絡一つするのに、何でこんなに悩むんだ?
ため息をついていると、あいつの声が聞こえてきた。
「テストできなかった系?」
「相澤か。いや、テストはそこそこできた」
「じゃあ、ため息の原因は理沙ちゃんか。今度は何よ?」
「明日のテストが終わったら、一緒にご飯でもどうかな? っていう文面にしたいんだけど、文章にするのが難しくて……」
「なるほど。でも『明日は予定がある』って言ってたから、ランチは無理だ! 残念」
相澤がニヤッとしたのが気になった。
「……妙に嬉しそうじゃない?」
「まさか! 人の不幸を喜ぶほど根性悪くねぇわ」
「ごめん、俺の考えすぎだ」
「分かればよろしい。じゃあ、俺これから撮影あっから、お先!」
そう言って、相澤は迎えに来た車まで走って行った。
予定あるから無理か……。でも、一応聞いてみるか。
学校から家に帰るまで、懸命に文章を考え、ようやくまとまった時、遠くから彼女の声が聞こえてきた。
「山井くーん。はぁ……やっと、追いついた」
理沙が走って追いかけてきた。少し息を切らしている。
「どうしたの?」
「山井くんのお陰で、今日のテスト、結構できたと思います! お礼を言いたいなぁと思ってたら、姿が見えたので、追いかけてきちゃいました」
「そうだったんだ。テストできたみたいで良かった! お礼なんて良いのに……」
そう言った瞬間、あることを閃いた。
お礼ということで、明日のお昼、食事に付き合ってもらうというのは自然な誘い方じゃないか⁉︎ 二人っきりじゃないことをアピールすれば、そんなに警戒されないかも。
「あっ、あのさ……、明日のテストが終わったら、一緒にランチ行かない? もちろん、
俺と二人じゃなくて、内山さんを誘ってもらって良いからさ。それが勉強会のお礼ってことでどうかな?」
彼女は驚いた様子で俺を見上げ、悲しそうな表情をする。そして、少し考えて話し始めた。
「ごめんなさい。明日はちょっと用事があって……。今度、皆で行きましょ!」
「急な誘いで、ごめん。また今度ね」
そう言いながら少しうつむき苦笑いして見せた。彼女も苦笑いを見せる。そのあとすぐ彼女と別れ、家に着いた俺は、ソファに倒れ込んだ。魂が抜けたように、ボーッとしたまましばらく動けなくなるのだった。