人が疎らなテラスにデイヴィットとシルヴァンはいた。

「シルヴァン、何故婚約者ではない令嬢と終始共にいるのだ?」

余計な詮索は不要とばかりに直球で話を切り出す。シルヴァンはデイヴィットにそんなことを言われるとは露程にも気にしていなかったため、不意打ちを食らった気分になっていた。

しかし、ここはデイヴィットとの二人の空間だと思い直し、ふっと笑ってみせた。

「カテリーナは口煩くにこりともしない可愛げのない女です」
「トラバルト嬢は違うと?」
「えぇ、共にいると心が安らぐのです」
「では、シルクレイド嬢と婚約解消後(・・・・・)に正規の方法で婚約を申し込めば良かろう?」
「まさか!父上がどうしても(・・・・・)と煩いのですよ。シルクレイド公爵家とのパイプが欲しいそうで。仕方なくカテリーナを本妻として娶り、レインを側妻として娶ろうと思ってます」

デイヴィットはシルヴァンの回答に、この男を見限る決意をする。高い地位にいる者ならば、婚約者との愛情が育まれなくても致し方ないと理解はできる。

歩み寄る努力もせずに側妻を今から囲おうとする性根には嫌悪しか湧かない。デイヴィットはそれを出さないように微笑み理解ある顔をする。

「そういう計画であるなら、もう少し学園内の人目も気にした方が良いと思うが…」
「大丈夫ですよ。我が家はアッシュレイ公爵家なんですか。……………レインを待たせていますので失礼します」

軽く礼をして離れていくシルヴァンの背中を見ながら、デイヴィットはカテリーナを思い出していた。

何かを為そうとしている瞳が垣間見えた気がしているデイヴィット。今宵のシルヴァンの忠告がせめて彼女の為すことの妨害にならぬよう祈るのだった。

そしてシルヴァンの返答に更に嫌悪を抱いた。暗に公爵家に逆らう者は持てる力で潰すと明言したのだから。

「あれで次代の公爵とは…世も末だな」

吐き捨てるようにデイヴィットは独り言を呟いた。それから数ヵ月後の卒業式典の日、それは起こるべくして起こった。





「カテリーナ・フォン・シルクレイド、貴女には失望した。貴女との婚約は破棄させていただく」

という声と共に。