白鴎学園高等部では、余った焼きそばをパンに挟んで提供する「食堂のおばちゃん」がいる。個数はいつも二、三個で、生徒たちにとっては貴重なメニューだ。鳥の唐揚げと焼きそばが美味いと評判で、パンを持参して焼きそばを挟む生徒もいた。

 いつも飛ぶように現れて焼きそばパンを買い占める修一と暁也を見て、悔しがる三年生も多かったのである。彼らが焼きそばパンを購入しない日だけ、他の生徒たちは「おばちゃん特性の」それを食することができた。


 最後の授業が体育であるせいか、どの男子生徒も陽気な笑顔を浮かべていた。体育教師のもとへ集った三組と四組の生徒は、クラス関係なく談笑しあう。

 受験生であることを忘れたような笑みは十八歳よりも幼く、教師は「これから合同授業、サッカーを始めるが」と生徒たちに負けず大きな声を張り上げて、ルールを説明し始めた。

 サッカーの簡単なルールを一通り説明した後、教師は生徒たちに二色のゼッケンを配った。三組が黄色、四組が赤で色分けされていた。

 雪弥は、自分のクラスである四組の赤いゼッケンを、見よう見まねで着用しながら、サッカーのルールを頭の片隅で思い出していた。手で触ったら駄目で、足でボールを運んでゴールコートに入れる、といったことを口の中で二、三度繰り返す。

「おいおい。お前、もしかしてサッカーしたことないのか?」

 雪弥の呟きを拾った暁也が、呆れ顔で片眉を引き上げた。「そんなんで大丈夫かよ」と続ける彼の隣で、修一は予想外の現実を受け入れられないといった表情だ。

 正確にいえば、雪弥はサッカーという言葉を小耳に挟み、テレビでちらりと見たことしかなかった。小・中学校の授業で体育はあったのだが、勉学以外に全く興味がなかった彼は、ほとんど参加しなかったのだ。

 飛び込みで参加する部活は、ほとんど武術関係であった。高校生になっても彼の目はスポーツに向くことがなく、バイト三昧の生活に体育と美術、音楽の授業を必ずすっぽかす問題児でもあったのである。

「いや、知っているとも。うん、でも進学校だったからサッカーの授業はなくて、筆記だけだったというか……」

 後半の早口を雪弥が口ごもったとき、体育教師がホイッスルを慣らした。「始めるぞ、配置につけ」という言葉が上がり、それぞれの生徒たちがポジションを決めながらグラウンドに広がった。

 四組は雪弥の転入によって一人分人数が多かったのだが、今日は一人欠席していたためメンバー数はちょうどだった。出来れば見学に回りたい雪弥だったが、風邪で休んだ生徒に「出席しろ」と思うわけにもいかず、修一と暁也に促されて渋々グラウンドに入る。

 教師のベルの合図で試合が始まると、ボールを運び出した西田から、すかさず修一がボールを取り上げた。「あっ」という彼の言葉も聞かずに、修一はクラスメイトである四組の男子生徒にボールを回す。

 それを受け取った眼鏡の男子生徒が、迷わず「暁也!」と叫んで細い足でボールを蹴り上げた。