修一と暁也を見送ったあと、雪弥は教室を出て校内を散策するように歩いた。声を掛けて来る生徒に「転入生で、少し校内を見て回っているんだ」と答える彼の足取りに迷いがないのは、彼の頭に白鷗学園の見取り図が入っているためだ。
 
 途中擦れ違った三学年の女英語教師は、「うちの造りは複雑じゃないけど、迷子になりそうだったら誰かに声を掛けるのよ」と心配したが、雪弥は曖昧に言葉を濁してその場をやりすごした。


 白鷗学園は、高等部側と大学側に敷地を二分しており、高等部は北東から西南にかけて校舎を広く建築していた。少人数制で四クラス分の教室を一列に構えているが、多種多様に機能できる部屋をいくつも設けて生徒たちに開放している。

 生徒たちの教室は一階から三階までの北側に位置しており、中央に職員室と事務室を設けた一階フロア上部に、移動教室用の部屋が続いた。

 学年全員が収まる広々とした視聴覚室と小さな放送室を三階に置き、南側には他に、図書室や音楽室、美術室や工作室を挟んでたくさんの教室がある。「第二」「予備」と各教科の専門用具が取り揃えられた部屋の他、申請があればいつでも使用することが出来る空き教室も複数あった。

 雪弥が向かったのは、南側の三階端に設けられた第二音楽室だった。

 第二音楽室は、声楽や勉強を主とする第一音楽室とは違い、多くの楽器が取り揃えられた倉庫を持っていた。楽器に関連した授業以外は、備えられている椅子と机は教室の奥に下げるのが定位置だ。学園創立時から部員の少ない吹奏楽部がそこで活動しており、隣接する第一音楽室はコーラス部が拠点を構えていた。

 修一から聞いた二年生の女子生徒の話を聞くため、雪弥は今回、第二音楽室へと足を運んだのだ。広い室内は木目調の柄が床一面を覆い、白が強調された肌色の壁には、音楽誌に残る偉人たちの写真が並ぶ。

 六月の生温い外気温に対して、その音楽教室には、肌寒さを感じるほどの冷房がかけられていた。室内には一年生から三年生までの女子生徒が七人おり、立てられた譜面を前にトランペットやトロンボーンなどの金管楽器を演奏していた。

 部活動が始まったばかりのようで人数は少なく、部員達はそれぞれ自分の音を奏でていた。

 基本的な音階を上下へと練習している生徒もいれば、よく耳にする簡単な曲調の音を奏でている者もあった。マウスピスに口を押しあてる女子生徒たちの顔は真剣そのもので、赤くなった顔に浮かぶ汗を拭うこともなく息を吹き込んでいる。

 雪弥は音楽室のガラス扉を開けて、飛び交う音の中から「線路は続くよ」の曲を奏でるトランペット音をしばらく聞いていた。一人の少女が一息つくように楽器から口を離したとき、ふと目があって口を開く。

「あの、すみません。ちょっといいですか?」

 雪弥の声は大きな楽器音にかき消されたが、気付いた少女の合図によって全員が音を止めた。「誰だろう」というように雪弥を見つめる女子生徒たちの唇は、腫れるようにして少し赤い。