「それ、元々この学校にあった噂なの?」
雪弥が尋ねると、修一はジュースで喉を潤しながら首を振った。
「昔からある話だって聞いてるけど、俺はつい最近知ったな。他の奴らも初耳だって言ってた。でもさ、山神様の話は昔からあるし、そういうのもあるんだろうなって――」
旧帆堀町の頃からあるという、地域の祭りを修一は話し出したが、雪弥は引っかかりを感じて考え込んでいた。
学校の七不思議は有名であるが、幽霊を一向に信じない雪弥にとって「そんな噂を流して何が楽しいのか」というのが正直な感想だった。しかし、ふと、そこに別の目的があるとしたらという疑問を覚えて考え直した。
「噂が回ったのは、いつ頃なのか訊いてもいい?」
「新学期が始まった頃だっけ」
話しを中断した修一が、そばパンを食べている暁也に問い掛けた。彼は大袈裟に顔を歪めながら食べ物を噛み砕き、数十秒の間を置いて「五月に入った頃だったろ」とぶっきらぼうに答える。
麻薬の卸し業者が発見されたのは五月である。雪弥は「そうなんだ」と心もなく応答して、斜め上へと視線をそらした。修一が「確かにそれが起こったんだから、噂は本当だったんだよ」と楽しげな声を上げた。
「二年生が肝試しやったって話しただろ? 噂が出回ったとき、じゃあ確かめようってなったらしいぜ。正門越えた時、何か聞こえるって騒ぎ出した女の子がいて、そのとき学校にぼんやりと浮かび上がる白いものを皆で目撃したって聞いたな。それから一気に噂が広まったんだと思う」
思い出すような顔で、修一が言葉を続ける。
「声が聞こえるって騒いでた女の子が学校に来なくなって、土地神様って件名の送り先不明のチェンメが出回って、うちは大騒ぎさ。学校に来なくなったその子が、連絡途絶える前に『土地神様が』って同級生に相談してるし、大学生も先生たちも気味悪がって早く帰るようになったらしいぜ? う~む、こりゃあまさしく怪談!」
修一は満足そうに締めくくると、手を止めていたアンパンを食べ始めた。
東京で起こっている事件と、タイミングは合っている。まさかなと思いながらも、勘が嫌な方向に働いて雪弥は強い苺味を喉に流し込んだ。しばらく間を置いたあと、途切れた会話を繋げるように言葉を投げかける。
「……その女の子って、どんな子なのか知ってる?」
「おう、吹奏楽部にいた大人しい感じの可愛い子って聞いてるぜ?」
修一がそう答えた矢先、暁也が間髪入れず鼻を鳴らした。どうしたのさ、と振り返る修一に、彼は馬鹿を見るような目を向ける。
「途中で世遊びに走って退部したらしいぜ? 五月くらいから深夜徘徊の常連メンバーだった。バイクで走っている時によく町で見かけたけど、ケバイ格好とか半端なかったし、見掛けるたび男と一緒だった」
「うっそ! マジで?」
「おう、マジだ。やばい感じの男だったぜ。ありゃあ、もう退学になっても文句はいえねぇだろうな。本人も学校に来る気はないみてぇだし」
飛び上がる修一の横で、暁也は他人事だった。積み上げられた食糧を物色している。
雪弥が尋ねると、修一はジュースで喉を潤しながら首を振った。
「昔からある話だって聞いてるけど、俺はつい最近知ったな。他の奴らも初耳だって言ってた。でもさ、山神様の話は昔からあるし、そういうのもあるんだろうなって――」
旧帆堀町の頃からあるという、地域の祭りを修一は話し出したが、雪弥は引っかかりを感じて考え込んでいた。
学校の七不思議は有名であるが、幽霊を一向に信じない雪弥にとって「そんな噂を流して何が楽しいのか」というのが正直な感想だった。しかし、ふと、そこに別の目的があるとしたらという疑問を覚えて考え直した。
「噂が回ったのは、いつ頃なのか訊いてもいい?」
「新学期が始まった頃だっけ」
話しを中断した修一が、そばパンを食べている暁也に問い掛けた。彼は大袈裟に顔を歪めながら食べ物を噛み砕き、数十秒の間を置いて「五月に入った頃だったろ」とぶっきらぼうに答える。
麻薬の卸し業者が発見されたのは五月である。雪弥は「そうなんだ」と心もなく応答して、斜め上へと視線をそらした。修一が「確かにそれが起こったんだから、噂は本当だったんだよ」と楽しげな声を上げた。
「二年生が肝試しやったって話しただろ? 噂が出回ったとき、じゃあ確かめようってなったらしいぜ。正門越えた時、何か聞こえるって騒ぎ出した女の子がいて、そのとき学校にぼんやりと浮かび上がる白いものを皆で目撃したって聞いたな。それから一気に噂が広まったんだと思う」
思い出すような顔で、修一が言葉を続ける。
「声が聞こえるって騒いでた女の子が学校に来なくなって、土地神様って件名の送り先不明のチェンメが出回って、うちは大騒ぎさ。学校に来なくなったその子が、連絡途絶える前に『土地神様が』って同級生に相談してるし、大学生も先生たちも気味悪がって早く帰るようになったらしいぜ? う~む、こりゃあまさしく怪談!」
修一は満足そうに締めくくると、手を止めていたアンパンを食べ始めた。
東京で起こっている事件と、タイミングは合っている。まさかなと思いながらも、勘が嫌な方向に働いて雪弥は強い苺味を喉に流し込んだ。しばらく間を置いたあと、途切れた会話を繋げるように言葉を投げかける。
「……その女の子って、どんな子なのか知ってる?」
「おう、吹奏楽部にいた大人しい感じの可愛い子って聞いてるぜ?」
修一がそう答えた矢先、暁也が間髪入れず鼻を鳴らした。どうしたのさ、と振り返る修一に、彼は馬鹿を見るような目を向ける。
「途中で世遊びに走って退部したらしいぜ? 五月くらいから深夜徘徊の常連メンバーだった。バイクで走っている時によく町で見かけたけど、ケバイ格好とか半端なかったし、見掛けるたび男と一緒だった」
「うっそ! マジで?」
「おう、マジだ。やばい感じの男だったぜ。ありゃあ、もう退学になっても文句はいえねぇだろうな。本人も学校に来る気はないみてぇだし」
飛び上がる修一の横で、暁也は他人事だった。積み上げられた食糧を物色している。