画面上に浮かんでいた赤い人型が、次々と動かなくなっていく。動く人影に血生臭い惨劇を想像しかけるが、少年たちは首を振るようにしてそれを払いのけた。

 眩しいほどの月明かりが照らす屋上からは、学園敷地内を取り囲む奇妙な黒い柱と有刺鉄線が見えた。暁也と修一は、そこにすっと横切る白い面の人間を見たような気がして怖くなり、それ以降は、いつも昼食をとっている中央に腰を下ろして外の景色を見ないように努めていた。

 ノートパソコンとトランシーバーは目の前にあり、銃だけが死角に置かれている。

「まだ、あれからそんなに経ってないんだよな……」

 暁也が呟いた。時々、座っている床越しにわずかな振動が伝わって来る。明るい月が出た夜空を見上げると、美しい星空が広がっていた。

「腹、減ったな……」

 パソコンから距離を置いてあぐらをかいていた修一が、何気なく暁也の呟きに答えた。暁也の腹から虫の音が鳴ったのを聞き、自分だけではないのだと気付いて黙りこむ。

 動揺と緊張が落ち着いてきた成長期の二人は、ひどい空腹を覚えていた。先程嘔吐した修一も、すっかり食欲が戻っていたのだ。

「…………なぁ、雪弥さ、大学校舎からうちの保健室に乗りこんでたけど、あそこって通路ないよな?」
「…………ああ、ない」

 あのとき、一緒にノートパソコンの画面に表示された地図を覗きこんでいたことを思い出し、二人はしばらく黙りこんだ。数十秒が経ち、暁也がようやく「話を上手くそらされちまったよな」と結果を述べる。

 修一は、暁也が静かに怒りを募らせていることに気付き、後ろに腕を置いて楽にしていた上体を、前へと戻した。

「やっぱりあれさ、何かで破壊して、無理やり近道した感じがするんだよ」
「だろうな。一体何を使ったかは知らねぇが」
「バズーカ砲とかさ」
「そんなの持ってたか?」

 暁也が呆れ返った視線を投げて寄こした。空腹で体力もないのか、力のない表情からは疲れが浮かんでいるようにも見える。

 そのとき、はっとしたように修一がパソコン画面を覗きこんだ。ぎこちなく画面に触れ、「げっ」と声を上げて暁也を振り返った。

「暁也、やばい! 雪弥以外の奴がこっちに向かってる!」

 何人だ、と急くように言って膝を立てた暁也に、修一は「一人」と答えて唾を呑んだ。

 どうやら、二人が恐れていたことが、とうとう起こったようだった。雪弥に「大丈夫」と言った矢先だったが、襲撃されるかもしれないと予測した修一が「どうする」と暁也に意見を求めた。不安げな表情は、助けを呼んだ方がいいのかどうかを伺っている。