現在、白鴎学園上空には特殊機関の偵察機が待機していた。現場に入ったエージェントに標的の数と居場所を鮮明に伝え、学園を取り囲む暗殺部隊が封鎖された内部の現状を把握することに役立っている。


 雪弥は元々、生きている者の気配を敏感に追えるので、こういった機材はほぼ必要としていなかった。スーツケースに用意されたコレは、自分たちのいる屋上に敵が迫ったら教えて、と暁也と修一に防衛一点で渡すつもりだったものだ。

 彼らの今の様子からすると、何かしら気をそらすような目的や作業を与えて、常に連絡出来る環境であるほうが精神的にも安定しそうだ。だから雪弥は、『敵の位置情報を伝える』がいかにもメインであるように、これらの道具を使うことを説明する形を取る事にしたのである。


 小型のノートパソコンは開くと自動で電源が入り、黒い背景に立体化された白鴎学園見取図が緑の線で描かれた画面が浮かび上がった。そこには、動く赤い人型が映し出されている。

「これは、熱探知機のモニター映像だよ。タッチパネル式になってるから、触れれば画面内部の視聴角度を変えられる」

 乗り気がしないのは、高度な熱探知機であるため人の姿形をしていることだ。鮮明に温度を映し出す偵察機は、廊下に集まる雪弥たちの姿もはっきりと捉えている。

 雪弥は数秒ほど考え、画像の解析度を出来るだけ下げることにした。視覚野が広がった映像は学園全体までカメラ位置が上がり、赤く浮かぶ人の形はずいぶんと小さくなった。四肢に動きはあるものの、ほぼマスコットサイズほどに縮んだこともあって、生々しさは半減されている。

 暁也と修一は、物珍しそうにノートパソコンを覗きこんだ。ぼんやりとした黄色い人影があることに気付いて、「赤色じゃないのがある」と修一が目を留めて疑問を口にする。

「僕のコートにはちょっとした仕掛けがあって、標的と識別出来るようになっているんだ」

 雪弥がそう教えると、彼らは「「なるほどなぁ」」と声を揃えた。