「そうそう、その主人公、本当お前と似てんだよなぁ。警察の父親がいて、最新シリーズで人質になっちゃってさ――」

 言いかけて、不意に修一は言葉を切った。「あれ?」と呟く笑みがぎこちなく引き攣り、対する暁也も表情を強張らせる。

「…………もしかして」
「…………ビンゴかもしれねぇ」

 しばらく沈黙を置き、修一が「うそぉ!」と後ずさった。

 暁也はどうして父が「家にいろ」といっていたのか思い至って、舌打ちした。


「チクショー、事件が起こっているのは町中じゃなくて、この学校だったのか!」


 常盤が雪弥を学校に呼んだとき、なぜ気付かなかったと暁也は苛立った。そばにいた修一が「そんなとんでもない学校じゃなかったはずなのに、一体なんで」と驚愕する顔を振り返り、言葉早く話を切り出す。

「俺の家に集まっていた親父の同僚が、大きな事件を追ってると言っていた。常盤が違法薬物を持っていて、人攫いみたいな行動にまで関わってるところから立てられる推測としては……その一、常盤は俺の親父が県警察本部長の息子だって知ってるから、あのおっさんたちは警察の動きを警戒して、保険のために俺らを人質として捕まえた」

 暁也が「1」と言って指を立てるのを、修一は息を呑んで見守る。続いて、二本目の指が立てられた。

「その二、つまり人質を立てなきゃならないようなヤバイことが起こっている。その三、そのおっさん共が常盤に違法薬物を与えている連中だとすると、県警本部が動くくらいだから、他にも関わっている犯罪メンバーがあるとも推測される。その四、校内に自由に出入り出来ているということは、学園にも常盤以外に大人の共犯者がいるってことだろうな。――まぁ、そうすると明美先生のバッグに入っていた注射器、本当に麻薬関係だった可能性も高くなるけどな」

 そこで、二人はしばし沈黙した。

「で、でもさ、なんで学校なんだろ?」
「親父が直でこっちに来てるのも気になる。もしかしたら、何らかの取引が――」

 そのとき、一瞬薄暗い室内に光が流れて消えていった。

 暁也は反射的に振り返ると、小さなガラス窓がはめられた放送室の扉へと駆け寄り、そこから廊下に並ぶ窓の様子を観察した。三階視聴覚室と隣接する放送室は、南側へと続く「第一」「第二」音楽室などの移動授業用教室が並ぶ廊下にある。

 すると、高等部の正門と運動場が覗けるその廊下に、外から強い斜光が当たって、流れるように消えていくのが見えた。耳を澄ませてみると、微かに振動音を感じ、暁也は学園内に大型の車が入ってきていることに気付いた。