時計が午後九時五十分を差したとき、ヘルメットとバイクの鍵を持って部屋を出た。バイクはショッピングセンターの駐輪所に停めとくか、と考えて階段を下り始めたが、ふと一階から少し騒がしい気配がすることに気付いた。


 一階へと差しかかって、暁也はそこにスーツ姿の男たちがいる事に気付いた。懐かしい顔触れは、父の部下たちであった。毅梨、内田、澤部、阿利宮、そして阿利宮といつも一緒にいる三人の若手刑事たちの姿もあった。

 階段から降りた暁也は、振り返った男たち一同に見つめられて「なんだよ?」と思わず顔を顰めた。こうしてきちんと顔を合わせるのは、高知市に住んでいたとき以来だ。

「暁也君、これからバイク……?」

 若手時代から面識のある阿利宮が言い、暁也は怪訝そうに眉を持ち上げて「そうだけど?」と答えた。

 阿利宮は、まるでそれがまずい事でもあるように言葉を詰まらせた。リビング出入り口に向かって内田がけだるそうに「金島さ~ん、息子さんっすよ~」と声をかけると、床を叩くような足音が聞こえてきて、全員の目がそちらへと向いた。

 圧倒的な雰囲気をまとった父が姿を現し、集まっていた男たちが、言葉もなく通路を開けた。

 父から仕事の瞳を向けられることが初めてだった暁也は、思わず息を呑んで彼を見上げた。室内にはどこか緊迫した空気があることに気付き、足元からすうっと萎縮するような緊張感をどうにか堪える。

「ちょっと、バイク飛ばして来る」

 久しぶりに父に投げかけた声は、喉から絞り出してようやくしか出て来なかった。屈強な体格を持った父を今一度確認し、暁也は思わず「こんなに大きい親父だったのか」と思ってしまった。

 すると、目の前に壁のように立つ父――金島本部長がこう言った。

「外出は禁止だ。今日は大人しくしていなさい」

 強い口調に、暁也は反論しかけて口をつぐんだ。リビング奥から出てきた母が、今にも泣きそうな顔で「暁也、お父さんの言うことをちゃんと聞いて」と懇願したのだ。

 暁也はわけが分からず、自分へと視線を向ける男たちを見回した。

「いったい、どうなって――」
「これは命令だ、暁也。今すぐ部屋に戻りなさい」

 父親ぶった物言いだ、暁也はカッとなった。

 こちらを見下ろす父に強い怒りを覚え、階段の柵にヘルメットを打ちつけて睨み上げた。苛立ちは一気に膨れ上がり、彼は不満と憤りで持っていたバイクの鍵を握りしめて叫んだ。

「あんたはそうやって、俺に説教ばっかりだ! こっちの話も聞かない癖に! 一体何がどうなってるのかくらい、話してくれてもいいだろ!」