常盤は、今や悪に恋をしていた。初めは組を率いる藤村を尊敬していたが、そこに尾賀という東京の組織が現れて、そちらへ目が移った。しかし、彼らは常盤が思い描く「賢く残酷で悪党」とはいかなかった。
何より、彼の理想が右肩に上がり続けていたのだ。
常盤は貪欲にも、映画や小説や漫画で見るような、賢くて利口で、そのうえ悪魔のような冷酷さを持った相棒を求め始めるようになっていた。出会ったシマや藤村たちと同様に、自分を引っ張ってくれる、すでに出来あがった悪人へと希望はエスカレートしていたのだ。
「…………外には、仲間に引き込めそうな奴っているかな」
ふと呟いた常盤を、明美が怪訝そうに見やった。「仲間に引き込んでどうすんのよ」と問われ、常盤は返す言葉が見つからなくなる。
明美は首筋にかかった髪を払うと、「あたしはね」と乱暴に言葉を吐き出した。
「理香みたいな人材は欲しくないのよ。あんたはシマっていう男の事が気に入ってるみたいだけど、私はすぐに足がつきそうな馬鹿は嫌いよ。薬をやって外を堂々と歩いてるなんて、いつ警察にマークされないかって、はらはらしてるんだから」
「俺が探してるのは、悪行を心の底から楽しむ知能犯だ。冷静沈着で、極悪非道な奴なんだよ」
常盤は苛立ったように口を挟んだ。明美が事務椅子を軋ませ、「ふぅん」と言って髪先を指でいじる。
彼女は整った眉を引き上げると、机の上に頬杖をついて常盤を見た。
「そんな都合のいい奴、いるのかしら。いても本当に少ないと思うわよ? まず、そういう奴に限って絶対表に出て来ないんだから、スカウトなんて無理よ。先に別の組織についているか、犯罪歴があって逃げてるかのどっちかでしょ?」
「でも、そいつらだって初めはどこにも所属してないもんだろ? うちの藤村さんもシマさんも、前までは普通に町中で暮らしていて、組に所属するなんて思わなかった頃があったんだぞ」
常盤は、これは希望的観測論ではないと強く反論するように、明美を睨みつけた。
短い沈黙のあと、明美が降参したように口を開いた。
「確かに、外にはいるかもしれないわね。でも、こっちでは絶対に見つからないと思うわよ。尾賀が藤村に目をつけたのも、そういった人間が他にいなかったからだもの」
ここはね、綺麗過ぎるのよ、といって明美は顔を歪めた。
「自分の事を優先に考えないお人好しばっかり。そんなところに、あんたが探しているような人間がいると思う?」
明美はそこで話しを切ると、カレンダーへ顔を向けて「……事が動くわ。明日集めることになるけど、手筈は整ってる?」と神妙に尋ねて話題を戻した。失敗は絶対に許されない。学生という身で『手助けしているにすぎない』としても、そこには過度な責任が押し付けられていると彼女は知って、彼を見つめる。
しばし沈黙してしまった常盤は、けれどそこに対しては全く心配していないのだという顔で頷いて、外を警戒しながら低く呟いた。
何より、彼の理想が右肩に上がり続けていたのだ。
常盤は貪欲にも、映画や小説や漫画で見るような、賢くて利口で、そのうえ悪魔のような冷酷さを持った相棒を求め始めるようになっていた。出会ったシマや藤村たちと同様に、自分を引っ張ってくれる、すでに出来あがった悪人へと希望はエスカレートしていたのだ。
「…………外には、仲間に引き込めそうな奴っているかな」
ふと呟いた常盤を、明美が怪訝そうに見やった。「仲間に引き込んでどうすんのよ」と問われ、常盤は返す言葉が見つからなくなる。
明美は首筋にかかった髪を払うと、「あたしはね」と乱暴に言葉を吐き出した。
「理香みたいな人材は欲しくないのよ。あんたはシマっていう男の事が気に入ってるみたいだけど、私はすぐに足がつきそうな馬鹿は嫌いよ。薬をやって外を堂々と歩いてるなんて、いつ警察にマークされないかって、はらはらしてるんだから」
「俺が探してるのは、悪行を心の底から楽しむ知能犯だ。冷静沈着で、極悪非道な奴なんだよ」
常盤は苛立ったように口を挟んだ。明美が事務椅子を軋ませ、「ふぅん」と言って髪先を指でいじる。
彼女は整った眉を引き上げると、机の上に頬杖をついて常盤を見た。
「そんな都合のいい奴、いるのかしら。いても本当に少ないと思うわよ? まず、そういう奴に限って絶対表に出て来ないんだから、スカウトなんて無理よ。先に別の組織についているか、犯罪歴があって逃げてるかのどっちかでしょ?」
「でも、そいつらだって初めはどこにも所属してないもんだろ? うちの藤村さんもシマさんも、前までは普通に町中で暮らしていて、組に所属するなんて思わなかった頃があったんだぞ」
常盤は、これは希望的観測論ではないと強く反論するように、明美を睨みつけた。
短い沈黙のあと、明美が降参したように口を開いた。
「確かに、外にはいるかもしれないわね。でも、こっちでは絶対に見つからないと思うわよ。尾賀が藤村に目をつけたのも、そういった人間が他にいなかったからだもの」
ここはね、綺麗過ぎるのよ、といって明美は顔を歪めた。
「自分の事を優先に考えないお人好しばっかり。そんなところに、あんたが探しているような人間がいると思う?」
明美はそこで話しを切ると、カレンダーへ顔を向けて「……事が動くわ。明日集めることになるけど、手筈は整ってる?」と神妙に尋ねて話題を戻した。失敗は絶対に許されない。学生という身で『手助けしているにすぎない』としても、そこには過度な責任が押し付けられていると彼女は知って、彼を見つめる。
しばし沈黙してしまった常盤は、けれどそこに対しては全く心配していないのだという顔で頷いて、外を警戒しながら低く呟いた。