尾崎は孫を見つめるように皺をゆるめただけで、何も答えなかった。雪弥は二人の関係を察して、なるほど、という顔で茶菓子を食べ進める。

 長い沈黙を置いて、キッシュが緊張気味に話しを切り出した。

『とはいえ、どうも荒が目立つんですよ。出回っているブルードリームは、摂取し続けないと傷ついた細胞が『隙間を開けた』現状を維持しないようなんです。それでいて、摂取し続けると組織が壊れて死んでしまうという……。今のところ、東京で薬物取締法によって検挙された中の三十二人が、ブルードリームのみの使用者と判明しましたが、その半分が息を引き取っています』

 ただ、全く安心出来ない事が今回で判明している、と彼は言う。

『二日前にナンバー4が確保したブルードリームは、若干成分が違っていたんです。遺伝子を傷つけるのではなく、『遺伝子そのものに変化を与えて隙間を作る』特性を持っています。それ以上の事はまだ分かっていませんが、なんというか、遺伝子が反応を起こし易くなる……そうですね、ふにゃっとした柔らかい感じになると言いますか』

 キッシュは口ごもった。『細胞の一つ一つが常に変化するなんて有り得ないことなので、俺自身うまく説明できないんですが』と、彼は戸惑うように続ける。

『簡単に違いを申しますと、前者のブルードリームは遺伝子を壊す作用のみで、摂取しなくなる事で細胞が元に戻ろうという通常の回復反応が見られます。しかし、学園側で確認されたブルードリームに関しては、一度摂取してしまうと遺伝子がゆるっゆるになって、現状そのまま回復しないのです』

 学園側で出回っている方が、少しだけ改良に成功した最新版のような気もする、と彼は自身の意見を口にした。

『回収したブルードリームでモルモット実験を試みましたが、五感による刺激のどれにも、遺伝子が不安定に揺れてしまうような反応を見せます。薬の効果が抜けた後もそれは変わらず続きます。この時点では、まぁ特に懸念するようなダメージでもないんですけどね。この反応については、人間が恐怖を覚えた時に震えるのと同じ程度の現象反応だ、と思って頂ければと思います』

 つまり両者のブルードリームは、それのみの摂取であれば、どちらも社会復帰が可能である事に変わりはないらしい。

 ただ後者が、本人も周りも気付かないほど小さな、遺伝子レベルで精密に検査をしないと分からないような、刺激反応を起こしているという状態だけが続く。これは現時点での推測だと、恐らく長い時間をかけても回復の兆しがない可能性があるという。