酒と煙草から始まり、ビリヤードやパチンコ、麻雀や女などシマは常盤に様々なことを教えた。仕事回りが良いときは大麻を持ち、二人でそれを吸って楽しんだ。

 シマは時々後輩を伴って現れ、「賢い小悪党だぞ」と常盤を自慢して小さくなった歯を見せて笑った。常盤の考えで「藤村組」の仕事が円滑に進むようになっていたこともあり、シマの仲間たちも常盤を気に入っていたのだ。

 大きな転機が訪れたのは、常盤が高校二年生になった冬だった。「藤村組」の拠点を茉莉海市に移すことが決まったのである。そこで彼らは、八人で活動していたメンバーに常盤を迎えると歓迎した。

 リーダーの藤村(ふじむら)は「大きな後ろ盾が欲しい」と考えていた。そして、常盤が高校三年生の四月、大きな話が舞い込んできたのだ。


『茉莉海市は絶好の立地です。お互い良いビジネスをしましょう』


 突然掛かってきた電話は、東京からだった。大量のヘロインを入荷する卸し業者が欲しいと男は続けた。

 ヘロインという言葉に、藤村は顔を強張らせたが、儲けの取り分と巨大な後ろ盾をすると約束した男に目の色を変えた。東洋の純粋ヘロインを受け取り横に流すことが仕事内容だったが、資金もない藤村たちに、相手の男は魅力的な条件を出して来たのである。

『初めの入荷分に関しては、すでに我々が代金を払っています。仕事を組んでくれたことへの、ほんの祝い金にすぎません。あなたたちはそれをタダで入荷し、相場価格で私たちに売ってくれれば良いのです』

 ただし、と男は続けた。

『中国からやってくる業者は、若い人間を四十人近く所望しております。こちらで情報操作、証拠隠滅しますので、あなたたちは集めてくれるだけでいい。入荷したヘロインに関しては好きな分を使用してくださって構いませんが、業者に売り渡す学生に関しては、特別製の薬を用意しておりますので、これを業者から受け取って服用させるようにしてください』

 東京から声を掛けてきた組織の力は、凄まじいものだった。どこに大量のヘロインを保管するのかも聞かされないまま、連絡を待って十日が経った五月の始めに『すべてが決まった』との電話が入った。その内容は驚くべきものだったが、日本でも例を見ない悪事に常盤は喜んだ。

 巨大な組織は、ヘロインの保管場所に白鴎学園を選んでいた。先に潜入させた明美という女が、富川を協力させるまでに持って行ったと常盤たちは知らされた。

 明美が新しく来た高等部の保険医であり、学長である富川の名も知っていた常盤は驚いたが、そこで与えられた大きな役目に歓喜を覚えて打ち震えた。明美が東京と学園の連絡係としての役目を担う中、彼は学園と藤村組の連絡係として任命されたのである。