この怨み、忘れるものか……自分の中で知らない憎悪が問いかけてくるような、そんな錯覚を受けることがある。

 
 忘れはしない。許さない、

 首一つになるまで、この牙と爪で――……


 初めて訪れてから、まだそんなに経っていない大豪邸を見上げた。大自然に囲まれたように見えるここが、全て庭だなんてまるで現実味がない。

 でもどこか、少しだけ、その土地に流れている空気は不思議と肌に馴染むところがあった。建物ではなくて、こうして立っている広大な芝生を踏み締めている足が、何かを懐かしがっているみたいに。

「おにいさま、どうしたの」

 四歳なる腹違いの妹に尋ねられて、ボールを手に持ったまま振り返る。

 青い目を向けた先で、三歳年下の漆黒の髪をした可愛い妹の、茶色っぽい黒の大きな瞳とパチリと目があった。彼女のそばには、彼女と同じ母親から生まれた四歳年上の兄が立っていた。

 遠く向こうから、二人の母の楽しげな談笑が聞こえてくる。

「お前は、ぼんやりしているな」
「うーん」

 そんな事はないと思うけれど、よく分からなくなる事も多いので、なんだか言い返せなくもなる。

 すると、兄が「どうした、雪弥」と妹と同じような事を質問してきた。十一歳にしてはひどく落ち着いていて、感情豊かな彼女とは正反対の無愛そ――しっかり者の兄だ。

「悩みがあるなら、聞くぞ」
「そんなものではないけれど、なんだか時々、ざわざわとして落ち着かなくなる事があるというか……、よく分からないです」

 ごめんね、と思い出して謝った。

 迷惑をかけるつもりじゃなかったんです、と告げたら、妹がきょとんとする隣で、兄が察したように冷静な顔でこう言った。

「お前は悪くない。父に断りもなく、あれが勝手に奥まで入ってきたんだ」
「……でもぼく、『このやろう』って言っちゃいました」
「正当防衛だ」
「せいとうぼうえい……一方的に先に飛びかかったのは、ぼくだよ?」
「驚かされたら、誰だってイラッとすることもある」

 そんなものかなと首をひねったら、そんなものだと兄が言う。

 帰るのはもう少し後だろう。まだ少し居られる時間を楽しむために、ボールを抱えたまま彼らについていった。