萬狩は、仲西青年と老犬を乗せて、海岸まで車を走らせた。

 目的地の駐車場に車を停めたところで、萬狩は一旦、後でビーチの前で落ち合う事を確認して、シェリーのリードを握った仲西と別れた。

 萬狩は防波堤のある北方向へ、仲西は、木々の並ぶ遊歩道の南側へ向かって歩いていった。
 
 ビーチは、左右に海浜公園と海岸沿いが連なっていた。萬狩が向かった先は、仲西が言った「散歩にうってつけ」という公園側の反対側に位置しており、浅瀬の海を拝める防波堤が設けられている。

 青く深い海側へ向けてせり出した防波堤の上には、夏休みを楽しんでいるらしい十一、二歳ほどの少年が四人いて、暑い日差しが降り注ぐ中、帽子を着用して釣りを楽しんでいた。

 東京では考えられないほど長閑で、萬狩には、どこか馴染めない光景でもあった。

 思えばゲームセンターもカラオケ店もない場所だから、自然の中で楽しむのが、ここの少年少女達にとっては普通の遊びなのかもしれない。

「……元気なものだな」

 照りつける日差しを手で遮り、萬狩は目を細めた。

 歩き出してまだ数分だというのに、既に汗も浮かび始めており、萬狩は早々に疲労感を覚えた。防波堤の先までは距離があるので、釣りを楽しむ少年達の会話は拾えないが、そこからは一際高い興奮した様子や、歓声の賑わいが潮風に乗って流れてきていた。
 
 そんな防波堤の眺められる歩道の中腹に、屋根とベンチがついた休憩所があった。

 休憩所には、先程理髪店で偶然会った、例の小男が腰かけて待っていた。彼は萬狩に気付くと立ち上がり、おどおどと視線を、何度もあちらこちらへそらしながら「今日は、その、すみません」とまずは謝った。

 互いに初対面のようなぎこちなさで会釈し、「萬狩だ」「古賀(こが)です」と自己紹介をした。向かい合わせに座るのは何となく憚れ、それぞれ海側を向いた状態で腰を落ち着けた。